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「…あ、れ」

 両目に激しい光量を感じ、ふわふわとした心地よい感覚が霧散した。視界のすぐ横では猛スピードで走り去る景色─山々の向こうに落ちかける夕日が輝いている。ああ、私は新幹線に乗っていたんだった。橙色の光が強く差し込む窓の傍で働かない頭を必死に回転させ、忘れかけていた状況を思い出す。
 ─そうだ、私は幼馴染の居る町に帰ってきたんだ。空席である隣の座席に無造作に置いた自分の荷物が目に入った時、寝ぼけていた脳の靄は途端に晴れた。

「…元気かな」

 膝の上に置きっぱなしのスマートフォンのボタンを押せば、明るい画面と共に新着メッセージを告げる表示。
 "もうそろそろだろ。みんな改札口で待ってる"
 本当に、どうして、男の子はメッセージ上だとこんなぶっきらぼうな返し方なのだろう、思わず口が緩む。皆に会うのは何時振りだろう─あれ、小学生?中学生?高校生?いつ転校して離れたっけ─思い出そうにも記憶に鍵がかけられているのか、という程思い出せない。ふわあと欠伸を1つ─うん、どうやら私の脳はまだ眠りから目が覚めていないようだ。
ふかふかな座席に背を預け、ぼんやりとぼかした視界の中で何かを見つめる。微かに聞こえる風を切る音を耳に入れるたび、少しだけ心が虚しくなるのは何故なのだろうか。大切な人達がいるこの街に、帰ってこれたというのに。