ありがとうの気持ち(DC)



初恋は誰?
そう聞かれると、決まって思い出すのは、金髪褐色肌のれーくんと呼んでいた彼の姿だった。
親の都合で幼少期から転勤ばかりしていた私は、友達ができてもすぐに次の町へ…なんてよくあることで、いつの間にか友達の作り方なんて分からなくなってしまっていた。
そんな時に出会った彼は、自分の容姿の事でいじめを受けても凛と立ち向かい子供ながらにも私は”カッコイイ”そういつしか思う様になっていたのだ。
と言っても、その後も私は、引っ越しを余儀なくされたので今はもう、どこで何をしているのかなんてまったくもって知らないけれど。

「エレーナせんせい、どうしたらせんせいになれるの?」

いつも怪我の絶えなかった彼を先生のように自分が治してあげたい。
先生に手当てしてもらった後の彼の笑顔が大好きだったから。
小さいながらにも彼がよく通っていたお医者さんの先生に聞いたのだ。

「あら、夏目ちゃんは先生になりたいの?」

「うん、れーくんいつもお怪我してるから、夏目が痛いの痛いの飛んでいけーってしてあげたいの…」

「ふふふ、そうね、それじゃ、うーんとお勉強がんばったらきっと先生になれるわ」

そう言われたから、苦手だった勉強もたくさんたくさん頑張って
医学部のある大学に無事、現役合格した。このころには、れーくんの記憶なんてあいまいにもなり、はっきりとその顔を思い出せはしなかったが、ある種の意地のようなものでここまで来たのだ。
そんなこんなで、大学6年間、必死に専門知識を頭に叩き込んだ。
医学部のある大学まで進学させてくれた家庭で、金持ちとまではいかないにしても学費を出し続けてくれた親からは、留年はしないでくれよっと言われていたからだ。
定年迎えたら、世界一周豪華客船で行く旅行がしたいのだと笑いながらに言っていた。

なんだかんだで、医師国家試験にもストレート合格。もう、こればかりは自慢していいだろうか。合格発表で泣きながら両親に電話したことが昨日のように思い浮かぶ。
卒業前、研修先を決めかねていた私に大学で師事した先生が、声を掛けてきた。

「夏目君、君は解剖学とか特にずば抜けてよかったよね?頭もいい。研修後になるんだけど僕の知り合いが法医学教室してるんだけど興味ない?」

そう、持ち掛けてきたのだ。
そんなこんなで、基礎研修を終了後、教授の勧めもあり法医学教室に入局した。
教授も人が悪い。「3K(危険・臭い・きつい)」仕事だと教えてくれればよかったのに…新人の頃は何度泣きを見たことか…
苦労した新人時代も何とか乗り切り、忙しい毎日を過ごしていた。

今日は、警視庁の医務室勤務日。
大なり小なり事件が多発している世の中、医務室を利用する人は足を絶たなかった。

コンコン

医務室の扉をノックする音がする。
返事はしないが、すぐさま扉を開ける音がした。
少し前に来た警察官のカルテを打ち込んでいた手を止め、椅子を回す。
向けた視線の先にいたのは、一人の男性。ふっと昔の記憶が走馬灯のように駆け巡った。

「・・・れーくん?」

「その呼び方、懐かしいな」

そう彼は、首を横に傾け、面影を残すその笑顔をこちらに向けたのだった。



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日本には、ドラマのように捜査権を持つ検死官は存在しません。
主人公は、通常の病院勤務に加え警視庁の医務室(臨時職員みたいなもの)と2つの職場があるとお考え下さい。
フィクションとして、拍手お礼限定小説お楽しみください。
また、最新話の主人公は変換機能がページ内に無い為、固定とし移動させたら変換してお楽しみください。