空白


 




その日は桐生ちゃんを探すため、泰平通りをうろついてるとなまえに話しかけられた。仕事終わりなのか、珍しくスーツ姿だ。


「なんや、なまえか」

「なんやとは失礼だなぁ!真島さんこれから時間あります?一緒にお酒飲みにいきましょうよ!」


いつもは休みの昼間に自分の後ろをちょこちょこついてくるだけなのに珍しい提案だった。

なまえに初めて会ったのは去年の暮れ。チンピラに絡まれてるなまえを助けたのがきっかけで、その時のなまえは格好こそ地味だが、雰囲気や話し方から良い女だと感じた。

しかし、次にたまたま会った時には無邪気で子供のような女になっていた。あの時と違うと本人に聞いてみたが、あの時は緊張してただけの一点張り。女を見る目はある方だと思うのだが、今回は気のせいだったのかと、惜しいが今は知り合いとして付き合っている。


「なまえにしては珍しいやないか。どうかしたんか」

「今日は華金ですよ!久しぶりに明日お休みなので飲みたいなって思って」


気にしていなかったが、今日は金曜日だ。この神室町はいつも浮かれ気分な奴らが多いが、そんな奴がより増えるのが今日。夜遅くまでやっている店も多くある。

いつも二人でご飯を食べに行くが昼間なので酒を共にすることが無かったが、珍しい日に、珍しくなまえから言われたことに、少し興味が湧き、誘いにのることにした。


¨¨¨¨¨


「今日は桐生さんに会えたんですか?」

「おぉ、会えたで。後ろから話しかけたらびっくりしとったわ」


一杯目から度数高めのカクテルを頼んだあたり、思ってるよりなまえは飲めるようだ。既に4杯目を飲んでいる。しかし眠くなってきたのか、言葉数が減ってきた。

流石に寝られると困るので、お開きにしようと言い、立ち上がろうとしたら、なまえが手を重ねてきた。普段しないような行動に胸が少しうるさくなった。どうしたとなまえの顔を覗き込むと、潤んだ瞳で柔らかく微笑んでいた。


「もうちょっと…ダメ?」

「…っ」

酒が入ったからなのか、普段のなまえからは想像出来ない色気と、とろんとした表情。あの時の良い女のなまえだった。


「なまえ酔いすぎや。ほら、水」

「ん、わかった…」


うるさく鳴る心臓を必死に抑え、なまえはそういう対象ではないと言い聞かせる。渡した水を言う通りに、こくこくと飲むなまえは幼く、自分を冷静にさせた。



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