#note_title#呼び方

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呼び方



呼び方



※ネームレス
※パートナー固定です


「グレイシア!逃げないで〜!」

部屋の中を走り回るパートナーのグレイシアと私。かれこれ五分以上は経過している。どうして彼が逃げ回るのかは分かってる。これは私のせいなのだ。

「お願いグレイシア!もうちょっとだけ付き合って!後でおやつたくさんあげるから〜〜」

おやつというワードに惹かれチラリと私を見るグレイシア。だけどすぐまた前を向いて走る足を止めない。
────なぜこのような事になっているかと言うと、数日前の事だ。

私にはお付き合いしている人がいる。その人は現役ジムリーダーでパルデア地方最強と呼ばれている。そんな彼とどう出会ったかって話は長くなるので割愛するけど、その彼からいつの日か『そろそろ呼び捨てしたら?』って言われたのが始まり。ずっとくん付けで呼んでいた訳で、いざ付けずに言おうとしたら恥ずかしくて言えなかったのだ。敬称があるのとないのとではこうも違うんだ……で!呼び慣れるためにパートナーのグレイシアに協力してもらって今に至る。

最初はまだよかった方なのだ。私のグレイシアは男の子で性格はれいせい。だから少し彼に似ているところがあり、恥ずかしながらもグレイシアに向かって彼の名前を呼んで練習していた。
グレイシアも私が呼ぶと首をかしげたりあくびをしたりと大人しくしていたけど数日も続けば嫌になったのか逃げ出すようになった。
そもそも私がちゃんと呼べないのが悪いんだけど、だからってそんな必死になって逃げなくていいじゃない!

「グレイシア、今度こそ言えるようになるから…お願い」
「………」

ようやく足を止めたグレイシア。やれやれと言った表情を浮かべ練習の時は決まってくつろぐお気に入りのクッションへ向かう。そして前足でテシテシと『おやつをくれ』のサイン。あ、おやつはちゃっかり頂くのね……私が言ったんだからそうなんだけど。
おやつを献上して一息ついたところで、グレイシアに向かって名前を呼ぶ。

「よし、ふぅ……いくよ、ぐ、グルー…シャ、く」
「……グレイ」
「グルー、シャ」
「……」
「グルーシャ」
「グレイ」
「グルーシャ、グルーシャ!」
「なに?」
「ぅ、え?!?!」

突然後ろから聞こえた声に飛び跳ねる。言わずもがなそこに居たのは恋人である彼。

「なんでここに!」
「連絡入れた」
「勝手に中入ってる!」
「…合鍵渡したのあんたでしょ」

あ、そうだった……じゃなくて!いったいいつから聞いていたのか。ぽけっとする私を無視して自分の家の様に近くにあったハンガーを手に上着を掛ける。そのあと二人がけソファに座りこちらをじっと見つめる。あれ、なんか

「怒ってる?」
「別に」
「絶対怒ってるやつじゃん……」

静かに怒るクセがある彼なのだ。ほんとなんで怒ってるんだろ…連絡無視したから?普段からそんな理由では怒ってないか。家に来てたのに気づいてなかったから?それは私が必死だったから仕方ない。じゃあ…

「なんで」
「うん?」
「あんたの相棒にぼくの名前呼んでたわけ」
「……………え、あ、まあ、これはその」

痛いところを突かれて返事が途切れる、やっぱ聞いてたよね…うう、恥ずかしいなぁ。
もう見られたんだし素直に言おう。その方が彼も納得してくれそう。そばに居るグレイシアを抱き上げ私もソファに掛ける。彼には膝に座ってもらおう。

「グルーシャくんが、前呼び捨てにしたらって言ってくれたから。呼ぼうとしたらなかなか言えなくて、それが恥ずかしくて、数日グレイシアに協力してもらって…」
「なるほど。それはお前も嫌にもなるよね…他の男の名前呼ばれてるとか」

そう言ってグルーシャくんがグレイシアの顎を撫でる。

「え?そうなの?」
「グ〜レイ」
「ぼくだってそうなるだろうし」
「え」
「こっちの話……で?練習してた割にぼくのこと敬称付けてたけど?成果見せてよ」

ずずいっと綺麗な顔を寄せてくる。ちょっと、近いって!やっぱり本人を前にすると緊張して言えないようで口からはえっと、とかあー、とかしか出ない。その間もグルーシャくんはどんどん距離を詰める。
わ、私!勇気を出せよ!グレイシアも見てるぞ!
意を決して近づいてくる彼の肩に手を乗せて、ストップをかける。

「ぐ、ぐる…しゃ、」
「…」
「ち、ちか、い、からストップ」
「………………はぁ〜〜〜〜〜〜〜」

大きなため息を吐き手のひらで顔を覆い離れるグルーシャくん。え…なんか想像の斜め上の反応…自分から言っといて??頑張って言ったのに〜〜!

「………いつまでもそんな感じで呼ばれたらたまらないからさ、早く慣れてね」

そう言って立ち上がり何か飲むのかキッチンに向かう彼、その後ろ姿からみえた耳は真っ赤になっていた。
斜め上のさらに斜め上。そんな……私も顔が熱くなってきた。
今グルーシャくんの隣に行っても邪魔になるだけだろうし大人しく座っていよう。
膝上でくつろぐグレイシアと目が合う。

「……やっぱりもう少し付き合ってね」
「……グゥ」