無題
※テル夢(ウォロ前提)
調査隊の先輩だったなまえさんが突然引退したのはもう随分前のことになる。誰にも相談せず、唐突に辞表を出したのだと間接的に聞いた。おれと一緒に活躍した仲なのに、何故相談してくれなったのかと何度心の内にこぼしたことか。今は宿舎を出てコトブキムラの外…開拓途中ではあるが人間が暮らせるまでになった安全な土地で一人静かに暮らしているそうだ。
今日もまたムラにやってきたなまえさんだが、昔の彼女とは違うところがあった。いつも明るく活発で、通り過ぎるときや目が合ったときも笑いかけてくれていたなまえさん。その彼女の可愛らしかった笑顔を見なくなったのだ。
いったい何時からだっただろうか…。
ああそうだ、ウォロさんがヒスイ地方を去ってからだった。
おれはウォロさんがヒスイから出て行こうとする所を偶然見かけたのだ。夜も更けた静かな海に、一人コソコソ小舟を準備しておれやショウ先輩に何も告げず出ていこうとするウォロさんを。
「待ってくださいよ」
「………テルさん」
こちらを見向きもせず必要最低限にまとめたであろう少ない荷物を積み込む。
「もしかして、○○さんにも黙って行くつもりですか」
「…彼女を頼みます。アナタにしか頼めませんので」
「話、聞けよ」
「もう二度とこの地に足を踏み入れることもありませんから、安心してください」
そう告げて白金の瞳をようやく見せた。
なんだよ、それ。
小さく会釈をして小舟に乗り込み漕ぎ出す。彼の姿が小さくなるのはあっという間だった。
「……なんで、おれに、○○さんのことを頼むんだよ……クソ。おれはウォロさんに挑んで、勝ったけど、勝てないんだよ」
※2024.0203:過去X(旧Twitter)に投稿したものを加筆修正