硝子

気がついた時にはもう手遅れだった。
恋人は常に髪を白く染めていて、光に当てると銀のようにきらきら輝き綺麗な色をしていた。けれどいまは地の黒を放置している。
目も綺麗な空色だったのに、今は澱んでいて。夜のように真っ黒な気がした。

おかしいことが起きている。言動も見た目も、全て異常だった。彼はそんな人じゃなかったのにと、ただただ彩は驚き戸惑い、どうすればいいのか分からずただ過ぎ行く時間とともに変わる恋人を見守ることしか出来ず、今もあまり物音をたてないようひっそりと部屋の整理整頓を勝手に手伝っていた。

恋人はおかしくなってから無茶苦茶な断捨離をするようになった。
必要な物や、黒統に持っていて欲しいと彩が思っているものまで捨てる。
なので彼が布団から動かない時を狙って、ごみ袋から引っ張り出し彩が保管しておくということが通例となった。
2人のデートの思い出にと買ったペアのぬいぐるみがゴミから出てきたのはとても堪えた。

自分では、彼を支えきれなかった。
その後悔と無力感でぽたぽたと涙が溢れ出す。
頬を流れる喪失の雫をすくい取って、抱きしめてくれる人はもう居ない。
壊れた人間と、ひび割れた人間は静かに傷つき合い消耗していくだけだった。
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