おかしな、ふたり。




 ベラドンナみたいだな。
 そう言われて、なんとなく腹が立ったので殺してみたのが始まりだったような気がする。ベラドンナ、俺の周囲ではそれはうつくしい女性でも毒草の意味でも無かった。もっと品の悪い、売女っていう意味で反吐が出た。昔の俺はそれはもう美少女まがいの顔をしていたのは、写真の中だけで知っている。今はこんな草臥れたおじさんに成り果てているが、まあ俺にだって若い頃はあったんだ。そうそれだけの話だ。お前たちだっていつかこの歳になるんだから、恰好を付けて居られるのも今の裡だと思っておけばいい。そう、ああ、そう。なんの話だったかな。これだから、歳を取ると困るんだ。説教くさくてかなわないよな。ああ、そうだった。ベラドンナの話だったよな。俺は別に売春をしていたわけでは無かった。まあ、ちょっと金を持っていそうな未亡人の女性に楽しいひとときを提供するくらいはしていた。その程度だ。性行為は誓って無かった、本当だよ。嘘じゃない。誓って。ほら、見てみろ舌もあるだろ? 東洋じゃ、嘘をつくと舌を抜かれるらしいから。なに、俺には三枚も舌があるって? お前来月の給与楽しみにしておけよ。……ああ、うん、そう、それでな、ベラドンナだとその男は言ったんだよ。理由は、俺が相手をしなかったからだ。そりゃそうだ。俺がどれだけ美少女のような容姿をしていようと、男だ。誰が好んで醜い豚の相手をするっていうんだ。ただ、俺はとても狡賢い幼少期だったもんだから、そいつから毟れるだけ毟ってやったんだよ、何って? 金に決まってるだろ。そしたら、そいつは無理やり俺の足を開いて、きたねえ逸物を突っ込んできようとしたわけだ。当然俺はぶちぎれて、力で敵わない奴の倒し方は知っていた。そもそも、俺は既にその頃から血が扱えていたから、わざと傷を作ってその汚いものを凍らせてやったんだよ。おいおい、股を抑えてどうしたんだ? まあ、お前があんまり外で遊ぶんなら砕いてやってもいいぞ。そしたら、言われたんだよ。ベラドンナみたいだな、って。唾飛ばして、濁声で、ひどいスラングでさぁ。俺は、むかついたんだよ。誰が、売女だって。そうだろう、俺は身体は売ってた経験は無かったからな。で、腹が立ったんだよ。俺はそう気が長いやつじゃなかったから。こんな豚が消えたところでどうでもいいって思ったんだよ。そいつは枕許に拳銃を仕舞う癖があって、俺は間違いなく引き金をひいて、むちゃくちゃに顔に撃ったんだよ。ああ、その時から俺はずいぶん気がふれてたんだろな。頭のおかしなやつだったのさ。銃声で駆けつけてくるようなお行儀の良い街じゃなかったから、俺は血まみれの身体で路地裏を駆け抜けた。拳銃を握りしめてな。それこそ、捕まったら刑務所にぶちこまれて、囚人共のトイレになりかねないからだ。さて、俺はつまるところ、捕まらなかった。
 路地裏を走っていた俺は、あの日天使にあったんだよ。おっと残念、薬はやっていない。赤い髪の悪魔だったのかも知れない。俺の身体を一瞥したグリーンアイズのうつくしい少年が、すっきりとした口調で言ったんだよ。
「……処理を手伝おうか?」
 って。俺よりも幼い顔立ちの、かわいらしい顔立ちで。にんまりと笑った顔に俺は一目ぼれをしたんだ。赤い服の変えを少年が近くにいた執事に着替えを用意させて、握りしめたままの拳銃はあっという間に解体されてしまった。まるでサーカスのショウを見ているようだったよ。それで少年は、緑の目を細く歪めながら「死体はどこに?」って笑うんだよ。俺は本当になんてきれいでうつくしいんだろうと思った。俺は、なんであの日彼に会ったのかは未だに分からないし、神なんて殆ど信仰もしていないが、あれこそ、神の奇跡。思し召しってやつだったんじゃないかって思うんだよ。滞りなくなにごともなく、人を殺したあとも俺は過ごしていた。なんで、君はあの場所にいたのかって少年に聞けば、バケモノを始末しに、って笑ってるんだよ。本当に可愛いと思ったよ。それから、俺は嫌なことをしたらその少年に伝えた。なんでも処理をしてくれるというんだから、頼まない手は無かった。御蔭で、俺のいた場所は今じゃずいぶんお行儀の良い街だって話だ。なんせ観光に推薦されてるらしいから臍で茶が沸く勢いだよ。そのあとは、俺は赤い髪の少年に付いていくことにしたんだよ。だって彼の口説き文句が「希有な血を持つ貴方といてみたい」だったんだ。俺はこの言葉が聖書に載っていないのがおかしいと思うんだ。こんなに神々しく、それでいて俺を一瞬で恋に落としてくれたんだ。そのあとは、さっさと手を出したさ。男に足を開く趣味は無かったが、彼には腰を振って悦ばせてやる性癖は持ち合わせていたらしい。おっと、電話だ。ウィ、スティーブン。ああ、クラウスか。どうしたんだ? ……ふーん、へえそう。大変だったね。ああ、そうだ、クラウス。

「処理、手伝おうか?」