さよならさんかく、またきてしかく。




 クラウスは、元々大きな家の出の子であったらしい。
 というのも、小さな時に没落してしまった上にクラウスを育てるほどの余力もなくなった経済環境によって、クラウスは赤ん坊のころにぽーいっと施設へと送り込まれてしまったのだった。とはいえ、あんまりに小さいときだったので悲しいとか寂しいとかそういう考えは乏しいものであった。そもそも大きくなった頃には当たり前のように父親がいたので、クラウスは幸運だった。
 施設に送り込まれてから数日。新聞に掲載された新しい顔という欄を見て父親は自分を引き取ったのである。父親の名前はスティーブン・A・スターフェイズ。クラウスも今はスターフェイズの姓を名乗っている。クラウス・スターフェイズ。ミドルネームはまだ考えているところであった。気に入ったら付けてあげるよ、と鼻先をつつかれた。クラウスはだから、気に入った名前が見つかったら父親に報告してミドルネームをもらおうと考えていたのだった。
 彼はとってもよく出来た人だった。
 仕事はどこかの高給取りの会社員だという。クラウスには難しいことはまだよくわからなかったが、数学と生物の知識に関してはとびぬけて頭がよかったので、彼は大学を受けてみたらどうだいと八つのクラウスを褒めてくれた。植物がすきなクラウスはどうやったらお花がきれいに咲くのか、その配合を知りたかっただけに過ぎないのだけれども、好きなことが覚えられて彼に褒められるのはとてもくすぐったくてたまらない思いだった。
 父親は休みの日にはたっぷり遊んでくれて、クラウスの好きなものを与えてくれた。欲物的ではなかったので、クラウスが欲しがるものといえば新作のドーナツだとか最近入荷した珍しい花の鉢植えだったりとかわいらしいものだった。旅行も好きなので、時々遠くに行ってみたいと彼にねだると、二つ返事で次の日には飛行機の中だったりする。クラウスはとっても幸せな子供であった。
 けれども、ひとつだけ、父であるスティーブンにも不思議で少しこわいところがある。
 まずお嫁さんがいなかった。だからクラウスは父子家庭である。でもこれはきっと恋人が死んでしまったとか、奥さんに先立たれたとか、別れてしまったとか色んな理由があるに違いないと思って、聡明な子供のクラウスは聞いたことは無かった。
 もうひとつは、スティーブンがお酒を飲む時だった。
 酩酊したスティーブンは前後不覚になってしまう事が時々あった。多くはない。クラウスも眠ってしまって知らないときも酔っているのかも知れないけれど、クラウスが起きているときに酔っぱらっていると高確率で、キスをされて体中にべたべたと触れられた。とはいえ、いやでは無かったのだ。スティーブンの唇も、その手の熱さも。クラウスは小さな胸を荒く上下させて、スティーブンが眠ってしまうまでひたすらされるがままであった。
 しかし、今夜はそんな酒癖の悪さも極まってか、もしくは彼の虫の居所が悪かったのか、ベッドに腰掛けたスティーブンは小さなクラウスを床に跪かせると目の前に大人のグロテスクな赤黒いおちんちんを差し出した。お風呂には何度か一緒に入っているので彼のそれが自分のものとは違ってとても大きくて長いのは知っていたけれど眼前でまじまじと見たことなど無いので、ぎょっと驚いてクラウスは思わず後ずさる。
「クラーウス」
 酔って間延びした声だったけれど、名前を呼ぶ声には確固たる逃がさないという命令が乗っていた。「しゃぶって」何を言い出すのだろうと、思った。はやく、と急かす彼は手元の瓶ビールを煽りながら待っている。こんなことは初めてであった。クラウスが嫌がることをスティーブンはけしてしなかったけれど、今のスティーブンはひどいことを強要している。
「……おとうさま、あの」
「ほら、そのちいさくてふっくらとした唇のあいだで食んでくれ。肉厚の子猫みたいな舌先でちろちろとミルクを舐めるみたいにしゃぶってくれよ」
 赤面するほどに品の無い物言いであった。クラウスはベッドにへにゃりとしたままの彼の世紀をもみじの手で包み込む。両手で掴んでも反対の指が触れ合うことは無く、なんとか持ち上げて、むっとする匂いに顔をしかめながらなんとか亀頭のさきっぽを舐めたのだった。ちろり、と舌先を尿道に押し付けてぺろりとひとなめする。味はしおからい感じがした。
「いいこだ。もっとくわえて」
 彼が頭をやさしくなでてくれたので、クラウスは意を決して小さな口を目一杯広げても亀頭冠まで咥えることもできず、くびれの手前までをなんとか含んでもごもごと舌を動かした。息も苦しいし、味もひどいものだった。それでもなんとか咥えて、少なくともこのときクラウスは父親の期待に応えようとするだけの幼気な心持ちからの形振り構わない一生懸命さであった。
 父親とは八つの男の子にとっては絶対的な支配者の様な顔をしていて、そのうえ何でも知り得る全知全能の神にも等しいものだった。スティーブンという男は、恐らく猶更クラウスにそう感じさせるほどに聡明で偉大さを伴っていたからだ。
 だから、これにも少なくとも意味があるはずだと、クラウスは思っていた。父であるスティーブンがクラウスにこんな風に強要するのは、きっとクラウスに何かを教えたいからだと。
「んぶっ、んっ、ぐ、むぅ……っ」
 頬を膨らませ、内側をごしごしとこすり付けられる。少しずつ動きが増えてきて、クラウスのリズムでは無くなっていく。ぐ、っと前かがみになり、濃い影が落ちてきたかと思うと後頭部を鷲掴まれ思い切り喉元へと男の性器がもぐりこんだ。それでもクラウスの口は小さいので、半分ほどしか入りきらない。
「おごっ、お"っ……うぉ、お……っ、おっ」
 喉を圧迫され、嘔吐く。せりあがる胃液は吐きたいというのに道が塞がれ出すこともできない。スティーブンが一心不乱に腰を蠢かし、とうとう喉に跳ね返る勢いで熱い飛沫が噴出され、食道へと流れ込む。収まりきらない白濁がクラウスの口内にあふれかえって口端からだらりと顎へ流れ落ちた。スティーブンは己の性器を涙をこぼして顔を真っ赤に染めながら頬張る幼子の濁液を拭ってやり、二三度、性器を揺すってから抜いてやった。
 とたんにひどい咳と白濁が零れ落ちる。クラウスは鼻水と涙をこぼして、床の上へ蹲った。
「クラウス」
 柔らかな声がクラウスの頭上に降る。鼻水を啜りながら、顔を上げると酒の匂いが近づき、唇をじゅうっと吸われる。勢いのまま成されるがままにクラウスの頭はオーバーヒートに追い込まれていく。ベッドへと持ち上げられ、そのまま服の中へと大きな手が這い回り肉の無い乳房をぎゅうぎゅうと揉みあげてくる。唇は首筋や肩口を食んで、クラウスはわけもわからずに追い立てられていた。
「ぁっ、ひぃ、いやあ、や、ァあ」
「くらうす」
 父親の薄暗い声が耳たぶを震わせ直接流し込まれる。内腿を弄られ尻の割れ目を指先が往復した。怖くていやで仕方がないというのに、体は熱くなっていく。スティーブンの顔は知らない男の顔をしていて、こうふんに急かされた獣のような目玉がぎょろぎょろとクラウスを射止めていた。尻穴に指が一本入り込んできて、クラウスは思わず小さな悲鳴を上げて息を詰めた。「ひっ」か弱い猫みたいな声音にも、スティーブンはすっかり酩酊した顔でにまにまといやらしい顔を作っている。
 くちゅくちゅとおしりの方から水音がしてきてクラウスは目をひん剥いた。自分の体からおかしな音がして、体は熱がこもっていやに熱かった。たすけてと熱病に浮かされるように手を伸ばすもののスティーブンは父は何もしてはくれなかった。やめて、と胸板を押し返すがクラウスの腕力では到底なにもできない。
「ぁんっ、や、ぁあ、おとうさ、とうさん……っ」
「スティーブンって呼ぶんだ」
「ふぇ、っ、んぁあっ、いたっ、ァあっあんっ、やあ、すてぃ、すち、ぶん」
 指が抜けていくとひくひくとクラウスの尻穴は疼き、開閉しては寂しさを訴えていた。ちゅくちゅくとスティーブンが指で撫でさすりながら「痛くてごめんね」と眉根を寄せている。
「あっ、ひっ――――!」
 息が止まった。目を剥き、クラウスは大きく仰け反る。胸を逸らし、弄繰り回された乳首は赤く腫れ上がっていた。熱した鉄棒に深々と刺され、体中がばらばらになりそうなほど軋んでいる。ぎゅうっと内部が収縮して、スティーブンの男根を圧迫した。
 クラウスがあくせくそんな逼迫した状況の中、それでもスティーブンが重い腰を動かし、ずっ、と引き抜き、次の瞬間体の内部を刺し貫いた。
「あーっ! あぁああ!!」
 殆ど絶叫であった。クラウスは皮膚がさけるほどにスティーブンの肩に爪を立て、お腹は突き入れられるたびに性器の形に膨らんだ。「ひぃ、ひぎっ……ぁ、んっああ!!」クラウスの孔は容量をオーバーしてそれでも皮膚を限界まで伸ばし、スティーブンの性器を受け入れている。
 クラウス、クラウス、と頭上から何度も呼び続けられ、瞼の裏でスパークが何度も散った。きっとあの白いドロドロが出るまで、やめてはもらえないのだと思うとクラウスはお腹の中を往復するスティーブンの性器になんとか耐えながら、足を目いっぱいに広げて受け入れた。
 何せ父親だ。育ててくれた人だ。きっとこの行為はクラウスにとって何か必要なことなのだと信じていた。
「ああっ、んあ、ひ」
 痛みではなくどんどん熱が上がっていく方が大きくなり、クラウスの口からは甘えるようにかわいらしい声が漏れた。何度もスティーブンは体を丸めてキスを繰り返してきては、クラウスの体はとたんに力を失ってどろりと溶けてしまう。
「あんっ、ああんぁっん、やあ、んぁあっ、う、んぁ」
 激流の中に飲み込まれたような猛烈なピストン運動は、クラウスにとっては未知なるもので、何度も何度も押し込まれる。そのうちに頭が真っ白になっていくのを感じてクラウスはただただスティーブンという見知った顔の知らない男に抱きつくしかなかったのであった。



おわり