はじまり
唐突に飛び込んできた連絡を聞いて走った先は、嫌でも鼻につく消毒液の臭いが染み込んだ場所。
誰もいない部屋では、俺と同じ青いジャージ姿の何時ものコイツがぽつんと椅子に座っていた。ただ何時もと変わらない姿のなかでひとつだけ違っていたのは、真っ白な包帯を足に巻いていたことだ。
このたった一枚の布切れが、コイツの身に起きたことを示していた。
「……それでどうなんだよ」
「……飛雄くん」
――私、もう選手としてコートにいられない。
「……は?」
「駄目なんだって。足、使えないんだって」
初めは冗談だと思った。
でもコイツはこんな状況で笑えねえ冗談を言う奴じゃないし、悲しそうで苦しそうで――まるで自分を責めるような辛そうな顔をしているのを見てこれが現実だってことが直ぐに分かった。
「ごめんね、飛雄くん」
「……何が」
「約束、守れなくなっちゃったから」
小学生の頃、大きな体育館でバレーをするっていう夢を話した。それは今でも変わらねえし変える気もねえ。でもコイツはそれを叶えられなくなる。
俺よりも才能があるコイツが、夢を諦めないといけない。
「……ごめ、ごめんね」
「!」
どんなに辛くても苦しくても涙を見せなかったコイツが、泣いた。
それを見てほとんど反射的に、それが当たり前であるように言葉を吐いた。
「――俺がお前を連れて行く」
「え……」
「俺がお前をデケエ体育館に連れて行ってやるから、泣くな」
俺の夢はお前の夢で、お前の夢は俺の夢だ。
反射的に出たこの言葉に嘘はない。諦めるつもりもない。だからお前は泣かないで良い――いや、泣くんじゃねえ。俺は、お前が泣く姿は見たくねえ。
「だから泣くな」
「……飛雄くん」
「……だから泣くなよ」
「……うん、うん……」
ありがとう、飛雄くん。
そう言いながら泣くコイツに、俺はまた「泣くな」としか言えなかった。どうしてか分からねえが、その時はそれ以外の言葉が見つからなかった。これ以上かける言葉があるとも思えなかった。
「泣くな」
「……うん、ありがとう」
「これ使え」
「ありがとう」
渡したタオルを頬に当てたコイツは目に涙を浮かべたまま何時もの笑顔を見せて、また「ありがとう」と礼を言う。何回言うつもりなんだと聞けば、コイツは言い足りないくらいとまた笑う
ほんの少しだけ、顔が熱くなった気がした。
「なあ」
「?」
「お前、違う場所でバレー続ける気ねえか?」
「え?」
お前の才能が羨ましい。此処で諦めるには勿体ねえくらいの武器だ。
コートに立てないなら、コートの外からその武器を使えば良い。
「……考えてもいなかった」
「やる気ねえか?」
「……ううん、やってみたい」
「じゃあ決まりだな」
――バレーは一人では繋げられない。
何時も誰かが誰かのために、思いとボールを繋いでいく。だからバレーが大好き。
「お前の思いは、俺が繋ぐ」
お前が口癖のように言う、言葉と一緒に。