名前姉ちゃんに届けてもらったエナジードリンクを飲んだ翌日、日曜日の朝。

 気怠い空気に頭を振って眼鏡をかけて寝間着のTシャツ姿のままリビングに降りれば、何時も通りテレビの音が聞こえてきた。父さんは仕事、母さんは朝から近所の人と出かけるって言っていた。それならこの音は兄ちゃんのはずだ。何時も通り朝のニュース番組でも見てるんだろうなとぼんやりした頭でリビングのドアを開けると、其処には人影はふたつ。

「……え」
「お、起きたか蛍。おはよう」
「おはよう、蛍ちゃん」
「……おは、よう」

 ひとつは予想通り兄ちゃん、そしてもうひとつは名前姉ちゃんだった。

 いるとは微塵も思ってなかったから、寝間着のTシャツ姿の自分を後悔したけどもう遅い。名前姉ちゃんは僕の姿を見て微笑ましそうに笑うと寝ぐせついてるよと僕の頭を指差した。

「えっ」
「ふふ、もうちょっと上」
「ど、どこ」

 焦って頭をパタパタ触るけどどれも違うらしい。くせ毛だから余計に分かりにくい。

 名前姉ちゃんはソファーから立ち上がると僕の前に立って、屈んでと笑ったから渋々直してもらうことにした。……ああ、確かにもうちょっと上だったかもしれない。

「はい、これで大丈夫」
「ありがとう……」
「どういたしまして。朝ごはん、食べるでしょ?」
「あ、うん」
「じゃあ作っておくから顔を洗って着替えてきてね」
「えっ」
「今日は名前が作ってくれたんだよ。母さん、朝の準備でバタバタしてたからさ」
「あ、そう……」

 久しぶりに名前姉ちゃんのご飯が食べられるんだ。

 少しだけ浮かれながら洗面所で何時もより丁寧に身支度をして部屋で着替えも済ませてからリビングに戻れば、ふわりと温かくてお腹を擽る匂いが鼻に届いた。

 何てことない、目玉焼きとウインナー。サラダにスープ、今日はパンじゃなくてご飯。

 でもその何てことない手作りのご飯がたまらなく好きだ。

「はい、めしあがれ」
「い、いただきます」
「どうぞ。沢山食べてね」
「蛍はそんなに食べないぞー」
「え、そうなの? 昔は沢山食べてたのに」
「兄ちゃん余計なこと言うなよ」
「だってそうだろー。俺なんてお前と同じ頃は倍以上食ってたし」

 お前細いんだからもっと食わないと駄目だぞ、なんて余計なひと言を貰いながら食べた名前姉ちゃんのご飯。母さんとはまた違う、温かい味がした気がした。

 何時もはおかわりなんてしないくせに、兄ちゃんにああ言われたのが癪でご飯を二杯食べた。せっかくの名前姉ちゃんのご飯だったっていうのもあるけど、何時もより食が進んだ気がする。

「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様でした」
「あ、洗い物手伝う」
「ふふ、ありがとう」

 肩を並べて食器洗いするなんて何年ぶりだろう。

 ……身長はすっかり追い越したはずで、今も隣に並んでいるはずなのに、どこか遠い気がする。そう思うのは僕の気持ちのせいか、それとも。

「蛍ちゃん」
「何?」
「このあと、用事ある?」
「特にはないけど……」
「じゃあ、私に付き合って」
「え?」

 にこにこと笑う名前姉ちゃんの言葉に、僕は目を丸くした。



「わあ、ここは変わってない」
「……」

 家を出て向かった先は、学校だった。

 休日で部活以外に用事のない生徒がいないから、人気はほとんどない。

「名前姉ちゃん、この前忘れ物届けにきた時に来たよね?」
「そうだけど、ゆっくり見て回らなかったから」
「そう」
「ふふ、懐かしいなあ」

 この自販機も前からあったんだよと笑う名前姉ちゃん。昔のことを懐かしそうに話しながら笑う名前姉ちゃんは凄く楽しそうだった。

 今ここに通っている僕と、昔ここに通っていた名前姉ちゃん。

「……」
「もう数年前になるんだ。見知った先生はまだいるのかな」
「分かんない。誰がいたの?」
「ええとね……」

 同じ場所に立っているのに、過ごした時間は違う。

 ちぐはぐで、絶対に同じにはなれない。

 




/xxxendive/novel/11/?index=1