「名前、お前なんでこっちに帰ってきたんだ?」
「え?」

 日曜日の朝、散歩の途中で寄った明光と蛍ちゃんの家。

 おばさんに勧められるままお邪魔しておばさんを見送って、起きてきた明光のご飯を作ったら何気ない様子でそう聞かれた。

「明光だって帰ってきてるでしょう?」
「俺は大学が暇になったから帰ってきただけ」

 でも、お前はなんか違う気がする。

「……どうしてそう思うの?」
「何となく。伊達にお前の幼なじみやってないし」
「ふふ、何それ」

 新聞を広げながら世間話をするように話を続ける明光。

 私の手はティーポットを持ったまま、動こうとしてくれない。

「何かあったなら言えよ。力になるから」
「……大丈夫だよ」
「お前の大丈夫は信用できない」
「ええ?」
「……だってお前」

 俺がスタメン落ちしたのを蛍に黙ってた時、辛かったの隠してただろ。

「あの時は余裕なくて気にかけてやれなかったけど、今なら分かるし」
「そんなことないよ」
「馬鹿、分かるって言ってるだろ。今でも気にしてるくせに」
「そんなことないよ」

 だってあれは、明光に憧れていた蛍ちゃんの夢を壊さないためにしていたこと。ちょっとだけ罪悪感はあるけど、でも黙っていたことは後悔していない。

 あれは、あの時にできた精一杯のことだと思うから。

「話戻すけどさ、本当に何があったんだ?」
「だから何もないよ」
「あるだろ。ちょっとこっち来い」

 明光に言われてようやく動いた体。ソファーにいた明光の隣に座ると明光はぶすっとした顔で眉を寄せて、ちょっと不満そうな顔をした。

「なあ、そんなに頼りないか?」
「そんなことないよ」
「じゃあなんで話さないんだ」
「だって、何もないから」
「ある」

 そんな気がすると渋い顔をする明光に少しだけ息が詰まりかけた。

 言っても楽になれないことを、私は知っている。

「……え」

 その時リビングのドアが開いて、まだ少しだけ眠そうな蛍ちゃんが起きてきた。



「名前姉ちゃん」
「!」

 中庭をぼんやりと見ながら今朝のことを思い出していた私に蛍ちゃんが少しだけ心配そうに声をかけてきて、私は慌てて顔を上げた。

 蛍ちゃんは疲れたんじゃないのと心配そうに顔を覗き込んできて、少しだけ首を傾げている。優しいところは昔から何も変わっていなくて、ちょっと嬉しくなった。

「ううん、大丈夫。ちょっとぼうっとしちゃっただけ」
「それなら良いけど……」
「心配かけてごめんね」
「良いよ、気にしないで」

 優しいところは変わらないのに、いつの間にかこんなに大きくなってた蛍ちゃん。

 純粋なところも、きっと変わっていない。

「……私とは、違うんだろうな」
「え?」
「あっ。ううん、何でもない」

 思わず口に出てしまった言葉は、適当にごまかしてしまった。


 




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