「名前姉ちゃん!」
「蛍ちゃん」

 お兄ちゃんのことが大好きで何時も後ろをついて回っていた蛍ちゃん。昔から家同士が仲が良くて、気が付いたら明光も蛍ちゃんも傍にいた。私はひとりっ子だったから蛍ちゃんは弟のように可愛がっていて、蛍ちゃんも私に懐いてくれた。

「名前姉ちゃんのこと、大好き」
「ふふ、私も蛍ちゃんのこと大好きだよ」
「違う!」
「え?」
「僕の好きは違うんだもん」
「?」

 どういう意味だろう。

 その時は蛍ちゃんが言っていることが分からなかった。好きに違いがあるのかと首を傾げる私に、その場に一緒にいた明光が苦笑いをしていたことにも気が付かなかった。

 蛍ちゃんが近くのソファーで昼寝を始めた頃、明光が蛍ちゃんに毛布をかけてから私の隣に座り直して微妙な顔をした。

「なあ、名前」
「なに?」
「蛍のこと、ちょっとは本気にしてやれよ。あれでも真剣らしいから」
「え?」

 私より七つ年下、明光と同じ年。

「……名前姉ちゃん」
「あ、蛍ちゃん」

 向こうで色々あって数年ぶりに実家に戻ってきて、少しだけ遅い時間に幼なじみの家に足を運んだ。

「前に見た時よりも随分身長伸びたね。ちょっとびっくりしちゃった」

 記憶のなかの蛍ちゃんは目を輝かせていた男の子だったのに、何時の間にか声も低くなって私の背を越して大きくなっていた。

「でも可愛い弟みたいに思っているのは変わらないから」

 そう言わないと昔の自分の言葉で首を吊って死んでしまいそうなくらい、格好良くなっていた。



「……今日も雨」

 雨季だから仕方ないと言えば仕方ない。最近の空模様はずっと思わしくなくて、晴れている日はほとんどなかった。

 傘に当たる雨音はそんなに強くないけど、ショート丈のレインブーツのつま先で当たって弾けるくらいには大きな雨粒。

「名前」
「明光」
「偶然だな。こんなところでどうしたんだ?」
「明光こそ」
「俺はおつかい頼まれた帰り」

 ほらとビニール袋を持ち上げる仕草に少しだけ笑うと明光は不満そうに唇を尖らせて、そんなに変かよと眉を寄せた。ちょっと子供っぽい顔にまた少しだけ笑ってしまったけど、明光はため息をつきながら傘を開いた。

「それで?」
「なに?」
「お前が此処にいる理由」
「ちょっと散歩」
「こんなに雨降ってるのにか?」
「雨の日の散歩も悪くないよ」
「風邪引くなよ。俺は家帰るけど、どうする? 多分そろそろ蛍が帰ってくると思うけど」
「まだ早い時間なのに?」
「体育館の都合で練習ないんだってさ」

 暇してるなら遊びに来いよと言う明光に誘われるままに家にお邪魔すれば直ぐに蛍ちゃんが帰ってきて、リビングを通り過ぎて部屋に行こうとしていた足を止めた。

「名前姉ちゃん」
「お帰り、蛍ちゃん」
「お帰り、蛍」
「……名前姉ちゃん、今日遊びに来るって聞いてなかったけど」

 ちょっとだけ目を丸くしてつけていたヘッドホンを外した蛍ちゃん。偶然道で明光と会ったことを話せば、そういうことかと納得したように目を細める。

「蛍ちゃん、今日もお疲れ様」
「……別に。練習もなかったし疲れてない。着替えてくる」
「いってらっしゃい」
「うん」

 ちょっとだけ嬉しそうに笑う蛍ちゃんに、胸が痛んだ。


 





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