「……え」

 兄ちゃんと偶然会って家に遊びに来た名前姉ちゃんが言ったことが、一瞬理解できなかった。

「ちょっと勧められてて」
「おばさんに?」
「ううん、お母さんの知り合いからの話なんだって。いい話だからって」
「それでこっち戻ってきてたのか?」
「それも理由のひとつかな」

 兄ちゃんは驚きながらも名前姉ちゃんに詳しい話を聞いていて、僕は現実味のない話のようにそれを聞くことしかできなかった。

「そっかー……。まあうん、会うだけなら良いんじゃないか?」
「うん、でもまだ決めたわけじゃないから」
「それにしても、見合いを勧めるなんてなー」
「……」

 名前姉ちゃんが、お見合いをする。



「蛍ちゃん」
「……名前姉ちゃん」

 兄ちゃんが風呂に行ったあと、家の庭に繋がっている縁側に座っていた僕の隣に名前姉ちゃんが座る。

 名前姉ちゃんがこっちに帰ってきた理由がお見合いをするため。そんな話を聞いて冷静でいられるほど、僕は大人じゃなかった。

「どうかした?」
「え?」
「何だかぼんやりしてるから」
「……そう?」
「ちょっとだけ」

 ちょっとどころじゃないし、内心穏やかじゃない。

 そんなこと言えるはずはなくて、その代わりに少しだけ息を吐き出しながら上を見上げる。電線が横断する空は既に暗くて、星はまばらに輝いている。

「……どうしてお見合いするって決めたの?」
「ん? ……どうしてかなあ」
「え?」
「どうしてだろうね」

 困ったように微笑む名前姉ちゃん。その顔は、何かを迷っているように見えた。

「……どうして、だろうなあ」

 悩むくらいなら、困るくらいなら。

「……」
「蛍ちゃん?」

 気付いたら名前姉ちゃんの腕を掴んでいて、喉からせり上がる言葉は何時もなら飲み込めているはずなのに、この時だけは飲み込むことができなかった。

「そんな顔するなら、僕にしておけば良い!」
「!」
「僕は! ずっと名前姉ちゃんを見てた!」
「蛍ちゃん」
「っ!」

 言ってしまった。

 相手にされないことを分かっていて、諦めがつかないまま、期待もしないまま、今まで飲み込んでいた言葉を。

「……蛍ちゃん」
「っ……」

 僕の言葉を聞いた名前姉ちゃんは、さっきよりも困った顔をしていた。


 




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