きっとそんな未来
※サバイバー主
「やあ、君も休憩かい?」
「クラーク」
「ははは」
別に名前で構わないのにとイライは笑い、ティーカップを摘まんでいた手を下ろして自分の隣の椅子を引いた。さり気なく隣の席を勧めるイライにナマエは驚いてまばたきをしたものの、他意はないと自己完結して彼の隣に腰かける。
ちょうどお茶をしていたイライは傍に置いていたティーセットから新しいティーカップを一客出し、琥珀色の液体を丁寧にカップに注ぐ。ふわふわと湯気が上がりベルガモットの香りが鼻腔を擽り、ナマエの表情が幾分か和らいだ。
「どうぞ」
「ありがとう」
「どういたしまして」
目の前に置かれたティーカップに口をつければ芳醇な香りの紅茶が口の中を潤し、ナマエはほっとしたように息を吐く。そんな彼女の様子をじっと見ているイライの視線に気が付いたナマエがどうかしたのと問いかければ、彼は口元を緩ませてふふと笑った。
「微笑ましくてついね」
「あのねえ……」
「さっきゲームを終えてきたばかりだろう? ひと息つけたようで良かった」
「……どうも」
「首尾は?」
「まあまあ。サベダーからチェイス引き継いでハッチ逃げ。こちらの勝ちよ」
「流石だね」
君は彼と競い合えるくらいに脚が速いからと笑うイライ。それだけしか取り柄がないのよとナマエは渋い顔をしたが、イライはそんなことないさと首を傾けた。
「君は勇敢だ。君と一緒のゲームは心強いよ」
「守護梟の使い手にそう言われると自信が持てるわね」
「私の力なんて大したことないさ」
「それ馬鹿にしてる?」
「していないよ」
本当に私自身の力なんて些細なものなんだと口元に笑みを浮かべるイライにナマエは少しだけ彼の過去を垣間見たような気がしたが、それを深追いする権利は自分にはないと視線をティーカップに落とす。
この荘園には様々な人間が様々な理由で終わりが見えないゲームを続けている。誰もがなにかに秀でた才能を持っているが、それぞれが競い合いながらも協力関係にあるという微妙な間柄なのでそれぞれの過去に触れたり話したりすることはない。
あくまでもこれは勝利者を決めるゲームなのだからと、どこかで割り切っている。
「貴方は」
「うん?」
「貴方は誰よりも優しいでしょう」
「!」
自分が疲弊することも厭わず誰かの為に守護の梟を飛ばし、時にはチェイスを引き受けて囮になる。自己犠牲といえば綺麗ごとだと言われてしまうかもしれないが、イライ・クラークという男はそういうことを当たり前のようにやってのける。
それが些細なものだというのなら、私の脚なんて貴方の足元にも及ばない。
「類稀なる才能よりも、そういう心がなによりも大切だと思う」
「……君は」
「なによ」
「随分柄じゃないことを言うね」
「失礼ね!」
「ははは。ああ、でも――」
そう言ってもらえると嬉しいよ。
「特に君から言われるとね」
「なによそれ……」
訳が分からないわねと眉を寄せながらティーカップを傾けるナマエの横顔をイライはじっと見つめながら、目隠し布の奥にある青い瞳をそっと揺らす。
ボタンを縫い付けたような瞳孔の奥に揺らいでいたのは、荘園の正面門を真っ直ぐに出て行くナマエの姿。そして向けられた笑顔と差し出された手の先には――。
「……ああ」
「?」
「なんでもない、ひとり言だよ」
「変な人」
左に小さな枷を嵌めていない自分の手だった。