花を焦がす


※女審神者


 その人は何時も誰かと共に居る。一人で居るところを見たことがないくらいに、ふと見かける度に必ず誰かと一緒に居る。

「ねえねえ今度は私の番!」
「お前はさっきやってもらってただろー?」
「はいはい喧嘩はしない。乱、お前はさっき浦島殿が呼んでいたから行ってきなさい」
「はーい」

 そのほとんどは彼の弟達だけれど、時々同じ部隊の面々と顔を合わせていたりもして勤勉で真っ直ぐな刀剣だと思う。豪華絢爛な見目は前の主の影響だと彼らしくない笑い方で笑ってみせたその表情を一度も忘れたことはない。



あのお方は何時も他の誰かとご一緒されている。一人で居れば誰かが声をかけてしまうような温かいお人柄故、それも納得といえば納得だ。

「主よ。この爺と一緒に日向ぼっこをしながら茶を飲んではくれないか?」
「三日月さんお暇なんですか?」
「はっはっはっ。今日は非番だがやることがなくてな」
「それはそうですけど……分かりました。これを片付けたらお伺いします」
「そうか。待っているぞ」

 そのほとんどは太刀が多いだろうか。日々私達を気に掛けながら本丸を管理し歴史修正主義者に対して戦っておられる。凛と真っ直ぐな立ち姿、しかし人気のない縁側で寂しげに微笑んで目を伏せる姿をお見かけしてからその姿が目に焼き付いて離れなかった。



「あら」
「おや」

 昼過ぎの本丸。非番の短刀達とそれに混ざって三日月や鶴丸などが昼寝に入った頃合いの時刻にナマエと一期一振は廊下で鉢合わせた。ナマエが短刀達は昼寝をしているのかと訊ねれば彼は今し方眠ったところですと微笑んで、両手で大事そうに持っていた包みをそっと解いてナマエへと差し出した。

「先日の遠征の際に主にと購入した物なのですが渡す頃合いが見当たりませんでしたので……。ちょうど良かった」
「私に?」
「ええ。宜しければ受け取って下さい」

 手の平程の小さく薄い木箱。開けても良いかと一期に訊ねてからナマエはその蓋を開けると木箱には色とりどりの和三盆が収められていた。それに目を丸くしたナマエを見て一期はクスクスと笑うと最近お疲れのようでしたのでと言い、優しげに目尻を和ませる。

「疲れには甘い物が良いと聞きましたので」
「嬉しい……ありがとう、一期さん」
「礼は必要ありません。普段私達を気遣って下さるお礼ですから」
「ねえ、もし時間があるなら一緒にお茶にしない?」
「私で宜しいのですか?」
「勿論。せっかくだから一緒に」
「ではご一緒させて頂きます」

 右手を胸に当てて恭しく一礼した一期にナマエは微笑みかけると二人で厨で肩を並べてお茶を淹れ、心地良い風の通る縁側へと腰を落ち着けた。ナマエは和三盆のひとつを摘まむと小さな花が寄り集まったそれに目を輝かせた。

「この花……」
「雪柳ですね。小さな白い花をつけます」
「物知りね。――うん、美味しい」
「お口に合ったようで良かった」
「本当にありがとう」
「いいえ」

 では私もと手袋を外した一期も和三盆を摘まむとひとつ口に入れると、優しい甘さが広がり自然と頬が緩んだ。そよそよと吹き抜ける風が心地良く庭の草木が機嫌良く揺れている。静かにその様子を眺めていたナマエがゆっくりと口を開く。

「一期さん」
「はい」
「この本丸が皆さんにとって過ごしやすい場所だと私は嬉しいです。毎日毎日戦いばかりだけれど……」

 少しでも安らげる場所であったら。

「そう毎日思っているんです」
「主……勿体ないお言葉です」
「そんなこと」
「ですがそれはこちらとて同じです」
「え?」

 私達同様、人には故郷があるのでしょう?

「ですが私達にはその概念はとても薄いもの。主以上に考えたことはありません。……故郷を離れ一人で頑張っておられる主が少しでも楽しいと思える場所が此処であれば良いのですが」
「一期さん……」
「私で宜しければずっとお傍におります。主の一番傍にいさせて下さい」

 静かに手を掬い上げられ甲に口付けられたナマエは目を丸くすると、顔を静かに上げて微笑んだ一期にぐっと息を飲み空いている手を突き出すようにして彼の顔を遮った。あまり意味のない行動ではあるが突然のことに対応出来るのはこれくらいで、一期は数回まばたきをすると破顔してクスクスと笑い突き出された手に自分の指をそっと絡めて捕える。

「!」
「主、先程摘まんだ和三盆を覚えていらっしゃいますか?」
「と、当然何……雪柳でしょう」
「ええ。その雪柳、面白い言葉があるんです。春に咲く小さな可憐な花は、まるで思い人を待つように沢山の花をつけます」

 静かな思いと共に。

「肉の身を得た私の胸を焦がすこの思いは貴女一人に」
「い、一期さん……」
「主、お覚悟を」
「お、お覚悟?」
「ええ」

 花をも焦がす静かな思いを、受け止める覚悟を。

 

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