手毬玉


 ≠プロデューサー


 ゴロゴロと機嫌が良さそうに喉を鳴らす白と黒の二匹の猫。

 その二匹を穏やかな微笑みを浮かべながら構い倒している後ろ姿に見覚えがあったナマエは少しだけ通り過ぎた道を引き返すと、薄桃色の髪を揺らす青年に声をかけた。

「十夜?」
「あ、ナマエさん。おはようございます」

 今日は早いんですねと腰を上げた十夜にナマエはちょっと練習がしたくてと返すと、貴女らしいですねとくすくすと微笑んだ十夜は脇に置いていた鞄を拾い上げて彼女に歩み寄った。

「同期だからこそ、貴女には負けていられませんね」
「十夜のお淑やかさには負けるけどね」
「おや、そんなことはないですよ」
「そうなの。真昼と深夜はもういいの?」
「はい、ご飯はもうあげましたから。貴女と一緒に登校がしたくて一緒に遊んでいてもらったので」
「……またそういうこと言う」

 だからそういうの狡いって何度も言ったのに。

「狡いですか?」
「狡い」

 息を吐いて歩き始めたナマエの隣を並んで歩き始めた十夜が首を傾げると、ナマエはそんな彼を見上げた。

 天上天下のメンバーの中では葵と僅差で背が一番低いものの、ナマエが見上げるには十分な背丈。不思議そうにこちらを見ながら首をかしげている仕草は何処か可愛らしくも見え、それにまたナマエは計算しなくてもこういうことができる狡い人だと息を吐いた。

「十夜は美人だし可愛いし、お淑やかだし。本当に女性も羨むくらいのハイスペックだと思うよ」
「そうでしょうか……。でもナマエだって十分美人さんですよ。この前の写真集、凄く売れ行きが良かったとプロデューサーが言っていました」
「ああ、あれ……」
「僕も買いましたよー」
「えっ」
「え?」

 まさか買っているとは思っていなかったナマエが驚きの声をあげると十夜は鞄の蓋を開けて、丁寧にクリアカバーをかけた一冊の写真集を取り出す。

 表紙には確かにナマエの顔がくっきりと映し出されていて、紛れもなく先程話題に挙がった写真集だった。

「ほら」
「え、あ……何で?」
「何でと言われましても……ナマエの写真集ですし。僕が欲しいなと思ったので」
「見たければ見せたのに……」
「手元に欲しかったんです」

 お仕事を頑張っている貴女の姿を見れば僕も頑張れる気がしたのでと嬉しそうに微笑む十夜に思わず言葉を無くしたナマエだったが、十夜は続けてみんなも一緒に買いましたと嬉しそうに言ったのでそれにはナマエも流石に我に返った。

「み、皆って誰」
「椿と葵と巽です。僕が買いに行くと話したら皆で行くことになって、皆で一冊ずつ買いました」
「な、んで天上天下の全員で買うかな……」
「身だしなみに厳しい葵も褒めてましたよー。確かこの写真が一番良いと――」
「あああああここで広げなくて良いから!」
「そうですか? では教室に着いたら見せますね」
「何ページ目か言ってもらえれば分かるから良いよ……」

 マイペースな十夜に振り回されたまま学校に到着したナマエはやけに疲れたと苦笑いをしながら彼と一緒に校舎に入ると、教室の手前で十夜に肩を叩かれたナマエが彼の方へ顔を向けると飴を差し出された。

「……手毬飴?」
「実は今日はこれを渡したくて一緒に登校したんです」

 ちょっと勇気が出なくて今になっちゃいましたけどと少しだけ照れたように笑う十夜にナマエが目を丸くすると、彼は唇の前に人差し指を立てて少しだけたれ目の目尻を下げる。

「写真集を出すまで試行錯誤をしていたこと、知っていました」
「!」
「何か出来ることはないかと考えてみましたが、モデルの仕事は貴女の方が得意ですし僕の出番はないかと思って見守ることしか出来ませんでした」

 ですからこれは、お疲れ様の意味を込めて。

「写真で見る貴女もステージで歌う貴女も、大好きです」
「と、十夜……」
「出来れば貴女の一番近くには僕がいたいのですが……」

 如何でしょうかと首を傾げながら微笑む十夜にナマエはぐっと息を飲むと、勝手にすれば良いでしょと半ばやけくそのように言い残して先に教室へ入って行ってしまった。

 その後ろ姿を見送った十夜は片手を頬に当てると少しだけ困ったように微笑んだかと思えば、嬉しそうに眉を下げて目尻を和ませた。

「……本当に、愛らしい人ですね」

 まるで、猫のよう。


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