無意識トラップ


▼殺し屋とストロベリー|(≠イチゴ)



「今度の依頼の書類?」
「おや、ナマエさん」

 何時も通りの閉店作業を終えた喫茶月影の片隅で、何かの書類に目を通していたツキミに気付いたナマエがそう声をかければ彼は穏やかな微笑みを浮かべてひとつ頷いた。

「十代後半の女の子の護衛依頼の件ですよ」
「イズナと私も一緒のやつだよね」
「はい」
「詳細は何処まで?」
「ほとんどありませんよ」
「ふうん」

 裏事情は知らぬが花だというのは何時も通りらしく、ナマエもその件は特に気にした様子もなくツキミの傍にあった椅子に腰かけた。その際にカフェのメイド服のスカートがふわりと揺れ、彼女が下に履いているドロワーズのフリルがチラリと見えたのをツキミは目敏く見逃さなかった。

「……ナマエさん」
「?」
「あのですね、私が言い出したことに意見するのは少々気が引けるのですが……」
「なに?」
「その、スカートの下のドロワーズ、やっぱり止めにしませんか……?」
「ええ?」

 ナマエは最初こそ仕事でも使っている黒のスパッツを下に履いていたが、せっかくの可愛いメイド服なのに勿体ないとドロワーズとパニエをノインに発注したのはツキミ。ドロワーズとパニエをツキミが真剣な表情で注文した時、ノインの呆れ顔やあからさまにドン引きしていたイズナの表情は喫茶月影で一時期話題になっていたほど。

 ようやくドロワーズとパニエにも慣れてきたにも関わらずやっぱり止めようというのはどういうことだとナマエが不満げな顔をすれば、ツキミはううんと唸りながら悩む表情を浮かべた。

「正直、目の遣り所に困るんです」

 店内で動くふわふわとしたスカートから覗く真っ白なフリルは、予想していた以上に目に毒だ。

「何だかんだで、私は妬いているのかもしれません」
「妬くって……え? はい?」
「イズナさんやアモンさんも、貴女には好意的ですから」
「いや、あの」
「可愛い貴女から目が離せなくなったのは、何時からでしょうね」

 全く困ったものですと眉を下げながら笑うツキミの大きな手がナマエの頬をゆっくりと撫で、甘いスイーツを作り上げる滑らかな指先が彼女の唇の端に触れた。

「ああ、柔らかい」
「ツキ――」
「まるで、泡立てたばかりのクリームのよう」

 不用意に触れれば形を崩し、飲み込んでしまえば舌に纏わりつく。

「私をこんなに惑わして、堕落させて――貴女は狡い人だ」
「……そんなの知らない」
「無意識の誘惑ですか? それもまた狡いですね」
「無意識のハニートラップ?」
「そうかもしれません」
「ツキミ、そういうの引っかからないのに」
「そうですね。――ですが、貴女に対してはその限りではないようです」

 何故でしょうか?

 

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