かなりの人見知りと怖がりで、直ぐに逃げ出す女の子。人見知りアリスなんて名前で呼ばれていて、逃げ足がかなり速い女の子。そんな女の子の刺繍には、努力が報われるというジンクスがある。

 その子は俺の、大切な彼女だ。



 飛び交う声とシューズのスキール音に放課後の時間を部活に使っていると静かにドアが開く音がして、音のした方へ顔を向けた。そこには何時もなら部活に行っているはずの名前がこっそりと顔を覗かせていて、それに気付いた俺は慌ててドアに駆け寄った。

「名前!」
「す、菅原先輩。お、お疲れ様です……」
「おう。どうした?」

 思いながらこっちを見上げてくる名前を見下ろすと、じっと俺を見つめてくる。なにか話したいけどまだびっくりしたのが落ち着いてない――って感じじゃなさそうだ。何だろうとこっちもじっと見つめ返すと、名前はしばらくしてぼんっと音を立てて顔を赤くして、ぷるぷると震え始めた。

「えーっと……どうした?」
「あ、あの……何でも、ないです」
「え、そう? でも、じっと見てたから何かあるのかなと思ってたんだけど……」
「あ、それは、その……」
「ん?」
「……菅原先輩が、格好良いなと、思って」
「……」

 ――名前、それは狡い。

 思わずその場にしゃがみ込むと、顔を隠すように下を向いて頭を片腕で抱えた。目の前では名前がどうかしたんですかって声をかけてくるけど、今はそれに答えられない。

「す、菅原先輩……」
「……ごめん、ちょっとタンマ」

 真っ直ぐな目が、可愛くて仕方ない。

 

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