何時もより早く家を出て、冷たい朝の空気をいっぱいに吸い込む。
前に刺繍糸と布を買い足して、少しだけ重くなった裁縫箱を持って通学路を歩き出した。
「……」
まだ人の気配もない通学路。何時もはかなり人の目が気になって少し早足で歩く道も、人が居なくて落ち着けるからゆっくりと歩く。でも目的があるから、あまりゆっくりになり過ぎない程度で。
目的は烏野高校の少し奥、校舎から離れた第二体育館。
「えっと……」
沢山の声と音がする入口から少しだけ離れた窓に手をかけると少し背伸びをして中を覗いた。硝子越しに見えるのは男子バレー部の朝練の様子。
最近は少し平気になったけどまだちょっと怖い影山くんが元気な日向くんにトスを上げている。……詳しいことは分からないけれど、綺麗だし恰好良いし凄いなと思う。其処から視線を横に向けると菅原先輩の姿が見えた。
影山くんとは違うトスは、優しい感じがする。それに何時もの菅原先輩も、格好良いけど……バレーをしている時はもっと格好良い。
「……凄いな」
私はあんなに運動神経が良くないから、とても羨ましい。
その練習をしばらく見てから窓から手を離すと、バレー部の朝練が終わるまで入口横の渡り廊下に座って刺繍をしながら待つ。時々私がこうして朝早く来てもすることは変わらなくて、朝練が終わるまで菅原先輩を外で待つのはちょっとだけ楽しみになっていた。中で待つのはボールが何時飛んでくるか分からないし邪魔になるといけないから、外で何時も待っている。
こんな待ちぼうけなら、素敵な朝に早変わりしそう。
「……」
「スガ、今日も名字きてるのか?」
「あ、うん」
第二体育館の中で澤村にトスを上げていた菅原は既に姿の見えない窓に向けていた目を澤村に移すと、少しだけ苦笑いをした。中で待ってて良いって言ってるのになと行った菅原に澤村は少々意地悪気な笑みを浮かべる。
「そんなこと言いつつ、顔緩んでるぞ」
「え、そうかな」
「ああ、盛大にな」
彼女を持った途端これだから嫌になるなーとわざとらしく言う澤村に菅原は赤くなった顔で茶化している彼を止めにかかっているが、その顔はどこか嬉しそうだった。
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