「待て名字!」
「いやあああ! ごめんなさい!」

 中学の時からずっと追いかけてくる影山くん。あんなに怖い顔をしているから、きっと私が気に入らないことをしてしまったに違いない。でも謝らなくちゃようなことは多分していないと思うけど、反射的に謝りながら逃げることしかできない。

 だから、そんなに怖い顔で追いかけてこないでほしい……!

 職員室の前を横切って廊下の人並みを縫うように影山君から逃げ切った私は、人が少ない実習教室付近で足を止めると上がった息を整えた。せっかくの昼休み。お昼も済ませて刺繍の続きをしようとしていたら教室に影山君が訪ねてきて……あの顔で近付いてきたから、思わず逃げちゃった。

「……だって怖いんだもん」

 未だにバクバクと鳴り止まない心臓を落ち着かせながら窓の空を見上げた名前は、同じように晴れていた数日前のことをぼんやりと思い返した。



「ご、ごめんなさい……! あのっ、怪我はありませんか?」
「……」
「あ、あの」
「……あ、いや大丈夫」

 背が低い私からすればどんな人もほとんどは背が高いけれど、この人もそれなりに背が高い。色素の薄い髪に優しそうな雰囲気をしていて、そんなに怖い人でもなさそうで少しほっとした。

 その人がゆっくり立ち上がったけど何も言わなくて、どうしようと視線を泳がせていたら、ふとその人の手に血が滲んでいるのを見つけてびっくりした。ああ、どうしよう私のせいだ……!

「け、怪我……」
「このくらいなら大丈夫――」
「だ、大丈夫じゃないです!」

 だって、それは私のせいで痛めてしまった手だから。

 取り敢えず止血だけでもとこの前クローバーを刺繍したばかりのハンカチを出して、その人の手に巻いた。大きな骨張った手に少しソワソワしたけれど、取り敢えず酷い怪我でなくてほっとした。でも、保健室に行って消毒しないと悪くなっちゃう……。

「あの、直ぐに保健室に……」

 私が保健室と言った途端に、はっとその人は顔色を変えた。……もしかして、保健室嫌いなのかな。どうしよう。でも怪我を放っておいたら悪くなっちゃうかも……。

「ご、ごめん!」
「え……!」

 やっぱり、保健室が嫌いだったのかもしれない。その人はそのまま走り去ってしまった。




「あの後、大丈夫だったかな……」

 私は昔から人と上手くお話出来ないけれど、ああいうことになったら話は別。何時も以上に話せたのは快挙だけど、それ以前にあの怪我を放っておいていないか心配になった。もしも影山くんみたいに運動部だったりしたら、同じバレー部だったりしたら、手が使えないのは困るよね。

 でもあの人にはそれから会っていない。

「あ、次現国だった……」

 それに図書室に移動だったはず。最近ようやくお話出来るようになった日向くんが図書室で授業って楽しそうだよねってお話してたのを思い出した。



ガードゥンプールの

  

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