数日の休暇を終えた名字は、今日東京に帰る。



「送ってもらっちゃってごめんね」
「良いって。それにこれ持って駅まで行くの大変だろ」

 ちょうど仕事が午後からだった俺は名字を車で駅まで送り届けた。乗る予定の電車まで十分と少し。ベンチで肩を並べる二人の距離は五日前とは変わった。

「明日から仕事だっけ?」
「うん。何時も通りの時間から」
「大変だな」
「そんなに早くないから大丈夫」
「今度は何時帰って来る予定なんだ?」
「冬に帰ってくるつもり」
「そうか」

 じゃあ、それまで浮気するなよ。

「し、しないよ!」
「ぷっ……ははは、冗談だって」

 意地悪くそう言ってやれば名字は慌てて返事をして、そんなこいつの様子を見た俺は予想通りの反応に思わず笑った。そんな俺に遊ばれたのだと気づいた名字は頬を膨らませ、からかったのかと俺の背中を叩く。

「もう!」
「ははは、悪い悪い」

 大切にしてやりたいのに少し意地悪をしてやりたくなるのは、こいつの表情がころころと変わるのが可愛いのが悪い。いやでもからかう俺も俺だから原因は半々くらいか。

「あ、電車来たみたい」
「じゃあ気を付けてな」
「うん。向こうに着いたら連絡するね」
「ああ、待ってる」

 到着した電車は名字を乗せて東京へ向かっていく。電車が見えなくなるまで見送った俺は少し息を吐くと空を見上げ、飛行機雲がうっすらと尾を引く青に目を細める。

「――さて、帰って仕事の準備するか」



 俺にも青春時代っていうものは当然あった。

 自宅からほど近い烏野高校。その中にいくつもある部活の中で男子バレーボール部に入部して、三色のボールを拾い打って追いかける日々。汗だくで見る奴によってはダサい俺を、何時も変わらない笑顔で応援してくれるマネージャーがいた。

 お前の為だったらいくらでも頑張ってやるなんてクサい台詞を脳内で考えつきはするものの、口に出せないのが俺。何時も変わらないその笑顔に何度救われたか分からない。

「特売なんだったっけか……チラシまだ見てないんだよな」

 背番号11番。スタメンになれなかった俺。

 何十時間も練習してたった一本のサービスエース。この一本の為に俺はキツイ練習にも耐えられると思った。そんな俺が居残り練習をしていることに気が付いて、何時の間にか帰り道を一緒に歩くようになった。


 変わらないと諦めた青春にもう一度だけと戦いを挑んだ俺の五日間の恋愛攻防戦線は、こうして終わりを迎えた。

  

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