ばらばらばら。
「……」
「はい、これ!」
日直で教室に残って日誌を書いていた私の目の前に、突然色とりどりのキャンディーの包みが降ってきた。
犯人は目の前で笑顔を浮かべている及川で、まだあるよと声を弾ませながらキャンディーの入っている袋を見せてくる。私は持っていたシャープペンシルをへし折りそうになったけど、日誌が痛んでしまうことに気が付いて寸でのところで押し留めた。
「……邪魔をしないでちょうだい」
「日直お疲れ様って意味だったんだけど」
「職務妨害よ。帰って」
「ヤダ」
この男本当に何がしたいの。馬鹿なのなんなの死ぬの――っていけない。つい悪癖が。口にしなければ良いという問題じゃないの。心がけの問題よ、心がけの問題。
机に撒かれたキャンディーに罪はないから丁寧に退けて日誌を書く作業を再開すると、及川は正面の椅子に腰かけて私の作業をじっと見つめている。何が面白いのか分からないけれど邪魔をしないでいてくれるならそれで良い。
「……」
「……」
時計の針が動く機械音と日誌を書くペンの音、そして教室の外から時々聞こえる話し声。
「……」
「……」
グラウンドで声を張って汗を流している運動部員たちの喧騒。
「……」
「……」
そんな音の中で日誌を進めていた私だけど、今まで不思議と静かにしていた及川が何かに気付いたようにはっと顔を上げた。
「名前ちゃん、日直って一人?」
「二人よ。部活があるって言っていたから先に行かせたわ」
「……何それ」
何かを思い出したと思ったらそんな些細なことか。
私の思いとは正反対に及川は何か不服そうな顔をしているけれど、別に私が行って良いと言ったことで仕事もこの日誌だけだったからそれほど手間にはならない。
「仕事も多くなかったから別に構わないわよ」
「そういうことじゃなくて! 自分の仕事放って部活行くのは違うと思うって言いたいんだけど」
「……貴方には関係ないでしょう」
「男のくせに女の子に仕事全部押し付けるなんてあり得ない」
何で日直の片方が男子だって知っているのよ。
思わず口元が引き攣ったけど、私の手元にある日直の欄に名前を書いていたことを思い出した。さっきまで私の作業を見ていたからそれで気付いたのかもしれない。もしそれではなかったとしても、この男ならクラスメイトの誰かから日直が誰か聞けるはずだ。
「別に良いって言っているでしょう」
「俺は良くない。だって、名前ちゃんが読書する時間減るでしょ」
「……は?」
むすっとした顔の及川から飛び出してきた意外な言葉に私は目を丸くした。今まで散々私の邪魔をしているくせに、他の誰かが私の読書を邪魔をすることには怒る。
やっていることと言っていることがちぐはぐで、噛み合わない。
「……ぷ」
「?」
「ぷ、ふふ……貴方、よく分からないわ」
「何で笑うの!?」
本当に、よく分からない。
不服の矛先が笑われたことへ移った及川に私はまた少しだけ笑って、日誌の最後を“騒がしい一日だった”と書いて締め括った。
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