名前先輩が烏野の部活によく来るようになった。それはスゲエ嬉しいし、その……何時も以上に頑張れる感じがして良い。スガさんも応援してくれてるし、大地さんも何だかんだで面倒見てくれてるらしい……けど。
「全然進展しねえ……」
部活がない休日の日曜、俺は部屋で頭を抱えていた。
いやでもそんなに急展開されても今の俺に対処出来るだけの技術も経験もねえ。少しずつ進んだ方が俺の心臓に負担をかけずに済む……そう考えれば、今の状態がベストに思えるから不思議だ。
そんな結論にを辿り着いてすっきりした俺がひと息つくと、近くに放り投げたままだった携帯が震えた。バイブレーションの感覚でそれが電話だと分かって手に取った――が。
「……知らねえ番号」
登録されてたら名前が出るはずが、目の前の画面は電話番号をそのまま映してる。前なら知らねえ番号はそのまま出なかったけど、一度スガさんが、日向から聞いてかけたんだけど出なかったから……ということがあって以来できるだけ出るようにしてる俺は通話ボタンを押して携帯を耳にあてた。
「……はい?」
『あ、飛雄くん?』
「!?」
俺は受話器の向こうから聞こえた声で思わず体をビクリと震わせた。それはさっきまで考えてた名前先輩の声で、まさか何でと俺の頭の中は一気に混乱状態になった。そんなことを知らねえ名前先輩は向こうで、繋がって良かったと笑ってる。……可愛い。
『私、名前だけど……』
「あ、ハイ! お疲れ様です!」
『こんにちは、今日も元気だねー。あのね、番号は孝支から聞いたの。急にごめんね。今、大丈夫?』
「大丈夫っス!」
電話越しで見えねえはずなのに正座をした俺は名前先輩の話を待つ。また向こう側でクスクス笑った名前先輩の声が聞こえて、俺は妙に心臓が煩くなっていくのがよく分かった。
『あのね、実は頼みたいことがあって。今日は一日暇してるかな?』
「はい、特に用事はないっスけど……」
『じゃあ、私と一緒に出掛けてほしい所があるの』
「……え」
その瞬間、俺の呼吸が止まった。
「本当にごめんね。大丈夫だった?」
「だだだ大丈夫っス!」
名前先輩と出かける。俺は待ち合わせをして目の前に私服の名前先輩が居ても実感が湧いてない。どうすれば良いんだ、これ。心の中でビクビクしてる俺はそれを表面に出さねえように必死で、顔が何時もより強張ってる気がする。
「それで行きたい場所はショッピングモールなの。孝支に頼んだんだけど、忙しいっていうから」
「それで俺に?」
「孝支が、飛雄くんなら付き合ってくれると思うって言って連絡先教えてくれたの」
「……」
スガさん、俺に気を遣ってくれたんスか……。
「それで、大丈夫かな?」
「あ、はい! 行きます!」
「ふふ、元気だね。じゃあお願いします」
目の前で楽しそうに笑ってる名前先輩にひとつ頷いて返した俺は、偶然飛び込んできたチャンスにそわそわしていた。
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