急に頼んだのに一緒に来てくれると言ってくれた飛雄くんには本当に感謝しなくちゃ。実は買い物も沢山あって、一人じゃ持ちきれないくらいになりそうだったの。何時もなら孝支が付き合ってくれるんだけど、今日はタイミングが悪かったみたい。

 でもこうして飛雄くんと一緒に出掛けることに、居心地の悪さなんて全然感じない。



「スゲー……」
「飛雄くん此処に来たことない?」
「はい。初めて来ました」
「じゃあ色々見て回ろうか。大きなスポーツショップもあったし、其処にも行こうね」
「! あ、あザス!」

 スポーツショップと聞いて目を輝かせた影山に名前は微笑ましそうに笑って、取り敢えず私の買い物を先に済ませて良いかなと訊ねて影山から了承を貰うと目的のショップへ足を向けた。

 その目的に店とはコスメショップだった。当然のように女性で賑わっていて、それを見た影山は僅かに口元を引き攣らせた。これは菅原も同行したがらない訳だと影山は思っていたが、ふたつ程勘違いをしている。まず菅原はどんな場所でも名前の買い物には同行する上このような店の耐性もついていること、そして同行しなかったのは私情からではなく影山の後押しをする為だということ。影山はそのふたつの点で菅原に頭を下げても良いくらいだった。

「えーっと……俺は、どうしたら」
「一緒に来てほしいの。そうじゃないと駄目だから」
「え?」

 影山は名前の言っている言葉の意味が分からないままにその背中についていき、元々買う物を決めてきていた名前は幾つかの商品を手にするとレジへ向かう。その道中で名前は影山に顔を向けると、真剣な表情で人差し指を立てた。

「飛雄くん、私と口裏を合わせてね」
「え」
「お願い」

 それだけ言うと名前は空いているレジに商品を置いて会計を始めた。店員は商品をレジに通し終えたところで影山に営業スマイルを浮かべた顔を向けた。

「彼氏さんですか?」
「!?」

 予想だにしていなかった問いかけに影山が思わずビクリと体を震わせれば、隣にいた名前がじっと影山を見つめる。その視線で先程の口裏合わせだと気付いた影山はぐっと息を飲んでから、ゆっくり口を開いた。

「そ、そうっス……」
「左様ですか。ではカップルキャンペーン中ですので、こちらからお好きなコスメをおひとつお選び下さい」

 心臓が飛び出すような感覚を味わいながら影山がそう答えると店員は営業スマイルを浮かべたままそう案内をして、カウンターの下からキャンペーンの案内を取り出して名前に見せる。それに視線を落とした名前はひとつの商品を指し示し、それを確認した店員は再びカウンターの下から物を取り出す。

「こちらでお間違いありませんか?」
「……」

 店員が出したのはミスティーローズのリップ。それに影山が一瞬目を奪われている間にそれは名前が購入した商品と共に袋に入れられ、店員が差し出した袋ははっと我に返った影山が受け取った。

「別に大丈夫だよ?」
「いえ、持たせて下さい!」
「それじゃあ……ありがとう」

 影山の厚意を拒否する理由もないのでそのまま荷物を持ってもらうことにした名前はその後もいくつかのショップを回り、そのたびに影山に荷物を持ってもらった。影山の両腕に沢山の紙袋が下げられる頃、休憩を兼ねてフードコートに立ち寄った二人は適当な店を選んで昼食を取った。

「本当にありがとう。助かっちゃった」
「い、いえ……何か俺の方こそメシ奢ってもらってスイマセン」
「これくらい当然だよ。買い物付き合ってくれたし、荷物も持ってもらってるんだもの」

 にこにこと機嫌良く笑顔を見せた名前に影山も嬉しそうに目元を和ませて、目の前の水を喉に流し込んだ。




「え、ホントに良いんですか?」
「うん、約束じゃない。荷物は一回何処かに預けようか」
「いや、このままで大丈夫です」
「でもお店見て回るには邪魔じゃない?」
「このくらいなら平気です」

 影山の両腕にある荷物を名前が気遣ったもののそれほど重くなく煩わしさも感じなかった影山はそのまま行く事を提案し、二人はその足でスポーツショップに向かうことにした。フードコートからエスカレーターで上がって直ぐの場所にあるその店はかなりの広さがあり、目が回ってしまいそうな品数があった。

「バレーボールの棚は……」
「分かるんですか?」
「何回か孝支と来たことがあるから。えっと、こっちね」

 名前は周囲を見回して影山をその棚の方に案内した。バレーボール関連用品だけで棚がいくつかあり、それに影山は目を輝かせる。ソワソワしながら棚の商品を吟味する彼の様子に喜んでもらえて良かったと名前が口元を綻ばせた時、影山の向こうから二人分の人影が隣の棚から姿を現した。

「それでさ――って、あれ?」
「んだよ。……名前?」
「え」

 名前は此処で鉢合わせるとは思っていなかった人物に目を丸くし、その声に聞き覚えがあった影山が声のした方へ顔を向ければヒクリと口元を引き攣らせた。

「岩泉さんに……及川さん」
「やあ、トビオちゃん」

 眉に皺が寄った影山に対して及川は怖いくらいの笑顔を浮かべていた。それに岩泉はこれは不味いと直ぐに察知し名前を見たが、彼女は何が起こるか全く分かっていないどころか偶然会えたことに驚いているだけ。この状況に直ぐさま対処出来ないことを察した岩泉は内心で頭を抱えた。

「色々言いたいことはあるんだけど、取り敢えず――」

 何で名前ちゃんと一緒に居るのか教えろ。

  

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