「……」
「……」
重い、空気がすげえ重い。
岩泉はどうするべきかと口元を引き攣らせたが、此処にいる誰もがまさかこのメンバーで鉢合わせをするとは当然思っていなかった上に突っ込める人物は自分しか居ないことを悟っていた。当事者である影山と及川は睨み合っていて、名前に至ってはびっくりしたと笑っている。
「まさか此処で一くんと及川に会えるなんて思ってなかった……」
「おい、クズ。こんな場所で睨み合いなんてしてんじゃねえよ」
「痛っ! 岩ちゃん酷い!」
「煩せえ」
取り敢えず及川の後頭部を張り飛ばして睨み合いを止めさせたところで岩泉は名前と影山へ顔を向け、偶然だなと今更だが御尤もな挨拶をした。それにはっと影山は名前の方に顔を向け、どうしてこの二人と知り合いなのかと訊ねた。
「同じ青城でもあそこって広いっすよね……?」
「えっと、一年生の五月くらいだったかな。私が偶々体育館前を通りかかった時にバレーボールが向こうから転がってきて、それを取りに来たのが一くんだったの」
「スンマセン! ……って菅原?」
「ええと、岩泉くんだっけ。部活?」
「まあな。あ、それ」
「はい。ということはバレー部なんだ」
「岩ちゃーん! ボール探すのに何処まで――って」
名前が拾ったボールを岩泉に手渡したところで体育館の方向から及川が姿を現し、名前を見た途端目を輝かせた。その理由を知っている岩泉はため息をつき、知らない名前は小首を傾げた。
「君って菅原名前ちゃんでしょ?」
「そ、そうだけど……」
「俺は及川徹。岩ちゃんと同期で一緒のバレー部、そして腐れ縁!」
「そうなんですか。宜しくお願いします」
「タメなんだから固いのはナシ! ねえねえ、ところでさ――」
何やらグイグイと絡んでくる及川に名前が目を丸くしていると後方から岩泉の平手が飛んで、そのまま引きずられるようにして体育館へ消えて行った。
「――っていうことがあって、それからお話するようになったの」
「はあ……そうなんスか」
何となく納得出来るような出来ないようなその説明に曖昧に返事をした影山だったが名前は気にしていないようでひとつ頷き、それじゃあまた学校でと及川達に向かって言えば及川は納得がいかないと言うように噛み付いてきた。
「え、ちょっとそれはないデショ!」
「どうして? そっちは二人でお買い物をしているんでしょう?」
「いやまあ、そうだけど……そうじゃなくて! 何でここで名前ちゃんとバッタリ会ったのに、あっさりサヨナラしないといけないの!」
「え?」
「……ザマア」
「影山、本当のことを言ってやるな。流石に可哀想だ」
「ホントに可哀想って思ってる人はそんなこと言わないよ、岩ちゃん!」
名前と及川のやり取りを見て隠しもせずにそう言った影山と、それに乗った岩泉。その会話の意味を分かっていない人が若干一名居るが、それに即座に反応した及川はツッコミを入れて影山を見下ろす。
「というか、お前が名前ちゃんとプライベートで買い物してることに色々と文句言いたいんだけど? お前、どういうつもりで名前ちゃんといるわけ?」
「……及川さんに話す必要ないです」
「へえー? そう答えるってことは、お前もしかして名前ちゃんのこと好きだとか?」
「!?」
「え?」
苛々を隠すことなく影山に突っかかる及川がそう言えば影山はビクリと体を震わせ、当然近くにいた名前本人にもそれは聞こえていた。名前の驚く声に影山は慌てて彼女の方に顔を向け、アワアワと何かを弁解しようとしている。
それを見てもう自白しているようなモンだろといっそ哀れにも思えてきた岩泉と、してやったり顔でニヤついている及川。彼らの様子になど気にかけていられない影山が真っ赤な顔でどう誤魔化そうか考えていたが、目の前の名前がぱあっと表情を明るくしたので影山を含め三人は目を丸くした。
「そうだったんだ……」
「え、あの名前先輩?」
「私も飛雄くんのこと好きだよ」
「え!?」
「はあ!?」
「……」
満面の笑顔でそう言った名前に影山の顔は更に赤くなり、及川は目を丸くしている。そんな三人の様子を近くながらもやや遠巻きに見るような目で聞いている岩泉。妙な空間が完成されているが、誰も気に留める者はいない。
「え、は……あの、え?」
「飛雄くんもそうだったなんて嬉しい。ふふ、ちょっと恥ずかしいね」
「え、あ……はい、ええと――」
「飛雄くんも一くんみたいに可愛いから、私も好き。これからも仲良くしてね」
「え? ……あ、ハイ」
そういうことか。
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