「ぶっ……あははははは!」
「……笑わないでください」
「いやごめ……でも、はははははっ!」
大爆笑をしている菅原と微妙な表情を浮かべている影山。彼らは誰も居ない部室の一角で腰を落ち着けていて、先日の事について菅原に訊ねられた影山があったことを全て話した。それを聞いた菅原はひとしきり笑った後目尻に浮かんだ涙を指で拭うと、笑いを落ち着かせるように長く息を吐いてから両手を後ろについて体を支える。
「いやまあ、まさかそんなことになってるなんて思ってもなかったからさ」
「……俺も思いませんでしたけど」
「姉さんの鈍感さは本当に凄いとは思ってたけど、まさかそんな話聞けるなんて思ってなかった」
……この前のことはやっぱりスガさんがどうにかしてくれたみたいで、それには感謝してる。でもここまで笑われると俺も何かこう、微妙な気分になるっつーか……悔しいとか思う。
「恋愛ってこんなに進展しないモンなんすかね」
「それ相手が――というかそれしか考えらんないんだよね。俺が言うのも何だけど初恋するには厄介な相手だって本気で思う」
恋愛って難しい。
「名前、お前最近よく来るようになったな」
「ん?」
まだ孝支も来ていない第二体育館。一番に来ていた澤村くんがそう聞いてきて私はノートから顔を上げた。
確かに前も来ていたけど、だいたい二週間に一回くらいで多くても一週間に一回。それがほとんど毎日のように来てるから、不思議に思うのかな。
「前よりもちょっと余裕が出来たし、それに可愛い子が増えたからかなー」
「可愛いってな……あれか、日向とか影山?」
「うん。でも一番は飛雄くん。何時も一所懸命だし話していても楽しいし、コロコロ表情が変わるから大好き」
「……あんまり男に向かって可愛いとか言ってやるなよ」
「どうして?」
一くんにも言ってるけど、同じことを言われたことがある。別に嘘は言っていないし本当なんだけどなあ……。
「男は可愛いよりもカッコいいの方が嬉しいんだよ」
「そうなの?」
「ああ。特に影山なんかはそうじゃないのか?」
一目惚れした相手だし。
肝心なそれは言わずに飲み込んだ澤村だったが、隣では首を傾げてそうなのかなと言葉を溢している名前の姿。それを見て、女の可愛いの基準がイマイチ分からないと澤村が苦笑いをした所で部室棟から出てきた菅原と影山が姿を見せ、直ぐに名前にも気が付いた。
「あ、姉さん。もう来てたんだ」
「あ、孝支。それに飛雄くんも」
「お、お疲れ様です! この前は、その、ありがとうございました!」
「ううん、こちらこそありがとう。また一緒にお出かけしようね」
「は、はい!」
「えっ」
名前と影山の会話を聞いて澤村が目を丸くすると、事情を知っている菅原が澤村に一部始終を話した事で納得はしてもらえた。しかしまさかそこまで名前と影山の関わり合いが飛躍しているとは思っていなかったようで、まさか名前がなあと思わず呟いていた。
「まさか俺もあんなに上手く連れ出せるとは思ってなかったよ」
「だろうな。まあ名前だから簡単に連れ出せたとでも言えるのかもしれないが……」
「うーん、それはあるかも」
自分の姉ではあるが、かなり無防備なところがあるからとやや苦笑いをする菅原を見て確かに澤村は頷き、この年齢の女子ではあまり見ない性格だと溢した。
「だからあんなに分かりやすい影山の態度にも全然気付かないんだろうしね」
「ああ、それはあるな」
「やっぱりさ」
どっかちょっとだけ似ている姉さんと影山ってお似合いなのかもな。
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