確かに名前先輩は鈍感だし俺のことを普通に、その……好きとか言うし。そもそもその好きに深い意味なんてねえ、んだけど……それがすげえ悔しい。それにあの及川さんも名前先輩のこと好きっぽい。
「くそ、学校が違げえってだけでもあれなのに……」
珍しくバレー雑誌の内容が頭に入ってこない俺はそれをテーブルに放ってそのまま布団に飛び込んだ。何かしてても気付けば名前先輩のことを考えて集中出来ねえ。IHも近いから練習も本格的に忙しくなってくる。
そろそろどうにかしねえと、本気で及川さんに持ってかれる。
「……でも、どうすれば良いか分かんねえ」
「ほらもっと声出せー!」
「オス!」
今日も学校が終わって直ぐに烏野男子バレー部にお邪魔して、時々潔子ちゃんのお手伝いをしながら練習を見せてもらっていた。一年生が入って孝支も今まで以上に頑張ってるみたいだし、時間が合うように予定も調整して公式戦見に行けるようにしないと。
あ、そうだ。今日一くんから飴貰ったんだっけ。忘れる前に食べておかないと……。
「ええと……」
「姉さん危ない!」
「?」
何時ものスパイク練。今日も名前先輩は俺達の練習を見に来てる。にこにこと笑ってこっち見てるのは可愛いと思うし……やる気も出る。
「……うし」
「影山、交代」
「はい!」
休憩してたスガさんとトス上げを交代して俺もそのまま休憩に入る。ドリンクとかタオルが置いてある近くに名前先輩も居て、前のめりで鞄をゴソゴソ漁ってる。……スカートが持ち上がっていて、ギリギリ見えねえけど目に悪い。……どっかで話しかけるタイミングとかねえかな。
「姉さん危ない!」
「?」
名前先輩に話しかけようとしてた足はスガさんの声で止まった。気付けば誰かが打ったスパイクが床で跳ねて名前先輩の方に飛んでて――俺は考える前に名前先輩の前に飛び出した。
孝支の声に気付いて振り返った時まず見えたのはこっちに飛んでくるバレーボール。でも直ぐに目の前に真っ白な壁が出来て私の視界を埋め尽くした。
「っ!」
そして大きな音。ぼうっとしていた私はその音でびっくりして尻餅をついてそのまま顔を上げると、目の前には飛雄君が立っていた。目の前に出来た真っ白な壁、それは飛雄くんの大きな背中だった。
「名前先輩! 怪我、怪我してないっスか!?」
「あ……」
直ぐにこっちに振り返って私を心配してくれた。尻餅をついたままの私はびっくりし過ぎちゃったみたいで直ぐに答えることが出来なくて、また同じことを飛雄くんが聞いてくれた時には周りに孝支や澤村くんが駆け寄ってきていた。
「影山ナイス! 姉さん大丈夫?」
「悪い。俺がスパイク取れなかったから……名前に当たる前に影山がレシーブしてくれて助かった」
「い、いえ……名前先輩。平気っスか?」
「あ、えっと……」
大丈夫と返そうとして尻餅をついた体を起こそうとした時、右足が痛んでまた尻餅をついた。それに皆はびっくりしていたけど、私もかなりびっくりしてる。尻餅ついた時、捻っちゃったのかな。
「……右足、捻っちゃったかも」
「え!」
「あ、でも大丈夫。此処の救急箱借りても良いかな?」
「それは良いけど、姉さんホント平気?」
「うん、大丈夫。飛雄くんが守ってくれたから」
「!」
「ありがとう、飛雄くん」
「い、いえ! あ、あの俺手当てします!」
足を捻っていては近くの救急箱を取りに行くのも大変だろうと影山は直ぐにそれを取りに行って、それを見送った澤村と菅原は顔を見合わせてから名前へ顔を向ける。
「……だってさ。姉さん、影山に手当してもらいなよ」
「え、でも」
「影山がそうしたいんだからさせてやれ、名前。じゃあ俺達練習戻るから。影山には手当てが終わって落ち着いたら戻ってくるように言ってくれ」
「う、うん」
何だかよく分からないけど、孝支と澤村くんの言葉に甘えてそうすることにした。二人が行くと同時に飛雄君は救急箱を持って戻ってきて、慌てて蓋を開けている。私はその間に靴下を脱いで右足を見た。
……腫れてないから酷くはなさそう。
「まず冷やして――これ、使って下さい」
「うん、ありがとう」
救急箱を持ってくる時に用意したらしいタオルを受け取った私はそれを右足首にそれをあてる。その間にも飛雄くんは包帯とか湿布とかを用意していて、凄く手際が良かった。
「……」
色々物を出している飛雄くんの手、凄く大きい。私の目の前に飛び出してきてくれたあの背中も凄く大きかったな。やっぱり男の子なんだと思う。私とは全然違う。凄く、格好良かった。
「……あれ?」
「どうかしたんスか?」
「うーんと……」
どうしてだろう。何時もの飛雄くんは可愛いはずなのに、今は凄く格好良く見える。
「名前先輩?」
「……何だろう」
「何がっスか?」
「うーん……」
「?」
私、今凄く飛雄くんがキラキラして見えるの。
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