きらきら、きらきら。

 まるで金平糖と飴を撒いたように綺麗。でも其処にいる人は今までなら可愛くて仕方なかったのに、今は格好良いとしか思えないの。どうしてだろう?

「うーん……」
「おはよう姉さん。どうしたの、そんなに呻って」
「孝支。おはよう……今日は練習ないの?」

 土曜日の朝。お父さんとお母さんが泊りがけで出かけていて居ない休日。リビングでクッションを抱いてごろごろしていたら、起きてきた孝支がそう声をかけてきた。昼過ぎからしか体育館使えないんだって孝支は答えて、テーブルに置いてあった朝ご飯に手をつける。あ、お茶出してあげないと。

「ありがとう姉さん」
「どういたしまして」
「あ、それでさっき呻ってたのって?」

 孝支にお茶を出すついでに私の分も淹れて、孝支の前に座った。

 飛雄くんに守ってもらってから何日か経った土曜日。その間にバレー部を何度も見に行ったけど、飛雄くんを可愛いと思うよりも格好良いと思う方が増えてきた。でもその理由が分からなくて、学校ではずっと一くんを見ていたんだけど、一くんはずっと可愛かった。

「あのね、私どうしてか分からないんだけど」
「ん?」
「飛雄くんが格好良いって思うようになったの」
「ぶっ!」

 思ったことをそのまま言ったら、お茶を飲んでいた孝支がそれを噴き出した。テーブルがお茶で濡れて凄くびっくりしたけど、お行儀悪いよ孝支。

「孝支、お行儀悪い」
「ご、ごめん……じゃなくて! どういうこと!?」
「なにが?」
「影山がカッコよく見えるって話!」

 テーブルを拭きながらそう聞いてくる孝支に、私もよく分からないと答えたらテーブルを拭く手が止まった。もうテーブルは綺麗になってたから大丈夫なんだけど、何だか不自然。どうしたのって聞いてみたら孝支は困ったような顔をしていた。

「いや、うん……分かんないんだ」
「うん。でもね、飛雄くんが私をボールから守ってくれた時からそうなの。どうしてなのか分からないけど、嫌な感じじゃなくてね。一くんもそう見えるのかなと思って学校の時は見てたんだけど、何時も通り可愛かったの」
「……」

 ……影山、何だか姉さんは気持ちの変化があったみたいだ。

「姉さん、今日は何か予定ある?」
「特にないけど……どうして?」
「じゃあさ」

 今日の練習終わったら今日の夕飯、ウチに来るように誘ってみたら?



「……え」
「どうかな?」

 孝支と一緒にバレー部に来たらもう飛雄くんは体育館でボールに触ってた。家で孝支に提案された通りに飛雄くんを誘ってみたら、飛雄くんはぴしっと音を立てて固まっちゃったんだけどどうしたんだろう……。

「え、あの」
「ん?」
「……良いんスか?」
「うん。今日はねポークカレーだよー」
「!!」
「温泉卵か目玉焼きつけて食べるの。好き?」
「す、好きです!」

 孝支がどうしても食べたいって言うからもう夕ご飯のメニューも決まってて、飛雄くんは目を輝かせて嬉しそうにしてくれた。何だか私も凄く嬉しい気持ち。それに、今の飛雄くんは格好良いと思うのに可愛いとも思うの。不思議だけど、嫌じゃない。

「じゃあ練習終わったら私の家で夕ご飯ね。あ、飛雄くんはお母さんにちゃんと連絡しないと駄目だよ?」
「はい、分かりました!」
「じゃあ決まり!」

 凄く嬉しそうな飛雄くんを見ると私も凄く嬉しくなる。何だか心が温かくなるような感じがした。



「おおおおお邪魔、します!」
「どうぞー」
「影山。そんなに緊張しなくて大丈夫だから、ほら上がって上がって」

 名前先輩はメシの準備があるからって練習の途中で先に帰って、練習が終わってから俺はスガさんに案内されて家に上がることになった。練習前にこうして誘われるなんて思ってなかった……。

 正直、スゲエ嬉しい。

 家に上がると直ぐにカレーの匂いがした。スガさんに案内してもらって洗面所を借りて手を洗う。名前先輩は手洗いうがいはしっかりしないとメシを食わせてくれないらしい。

「孝支は目玉焼き?」
「うん。影山は温泉卵だってさ」
「分かったー」

 台所でぱたぱた動いてる名前先輩。スガさんはリビングの端に鞄を置いて俺も其処に荷物を置かせてもらった。待ってる間はゆっくりしてて良いってスガさんは言ってたけど、落ち着かねえ……。

「あのさ、影山」
「はい」

 落ち着かないまま座ったソファーでスガさんがこっそり声をかけてきた。何の話かと首を傾げるとスガさんはニッと笑って座る距離を詰めてきて、今日のことは俺が提案したんだとこっそり話してくれた――って。

「え?」
「今日姉さんが、影山の話してたんだよ。それで誘おうと思ったんだよ」
「え……どんな話、ですか?」
「それは俺から言えないって。でも悪い話じゃなかった――」
「ご飯出来たよー」
「あ、うん! そういうことだからさ。今日はゆっくりしていって良いから」
「あ、はい……?」

 良く分かんねえねど、悪い話じゃないってどういうことだ?

 そんなことを考えながらテーブルについた俺は、先輩達に続いていただきますをして名前先輩が作ったポークカレー温玉乗せを食べる。名前先輩が作ったからってこともあるけど何だかすげえ美味く感じて、色々考えるのは止めて取り敢えず目の前の好物に集中することにした。



「ご馳走様でした」
「お粗末様。沢山食べてたねー」
「あっ。す、すいません……」
「ううん、良いの良いの。沢山食べてくれて嬉しいよ」

 そう言って名前先輩が笑うと、スガさんは自分の食器を片付けて風呂に入ってくるとリビングを出て行った。名前先輩には見えてなかったけど、俺に向かってスガさんは親指立てて――って俺、このまま此処に居て良いんスか。

 呆然としてる俺が気付いた時には名前先輩は俺の分の食器も台所に持って行ってて、慌ててその後を追う。名前先輩は座ってて良いっつってたけど、メシご馳走になって何もしない訳にはいかねえ。最後は俺も手伝うことで落ち着いた。

「その、今日はありがとうございます」
「?」
「夕飯、誘ってくれて……」
「ご飯は人が沢山居た方が美味しいから、こっちこそ来てくれてありがとう」

 にこにこ笑う名前先輩に皿を拭く手が一瞬止まった。お礼を言うのはこっちなのに、そう言われると何も言えなくなる。こういうトコが優しいと思うし、良いなと思う。

 皿も拭いて片付け終わる頃にはもう良い時間だった。本当はスガさんが風呂から出て来るまで待ってから帰ろうかと思ったけど、長風呂らしいから先に帰らせてもらうことにした。

「わざわざスンマセン……」
「玄関まででごめんね。この時間になると孝支が一人で出ちゃダメだって煩いから」
「いえ、そんなこと。ありがとうございます」
「此処からの道は分かる?」
「そんなに複雑な道じゃなかったんで」
「それなら良いんだけど。気を付けてね」
「はい。それじゃあ……その、お邪魔しました」



 孝支の言いつけがなければ飛雄くんを近くの道まで見送れるのに。何時もなら仲が良い友達が相手でも思わないことを今考えてる。……どうしてだろう?

「……あ、それなら良いんだけど。気を付けてね」

 まだ、もうちょっとだけ。

「はい。それじゃあ……その、お邪魔しました」

 お話したいな、なんて。



 まだ居てえとは思うけど、時間も時間だから邪魔になるのもアレだし帰った方が良い。名前先輩の家に来てメシ食って帰るだけとか後でスガさんに何か言われそうとか思ったけど、これが精一杯っつーか、その。

 そんなこと考えて名前先輩に背中を向けた時、後ろに引っ張られる感覚があって思わず振り返った。其処には当然名前先輩が居て、小せえ先輩の顔から更に下を見た時、俺は目を丸くした。

「え……」

 名前先輩が俺の服、握ってる。

「あ。ご、ごめんね!」
「いえ、大丈夫っスけど……あの、何で」
「ん?」
「何で、その……服、握ったのか聞いても良いですか」

 バクバクと音を立てて走る俺の心臓。公式戦でもこんなことほとんどねえのに、名前先輩の前じゃ冷静になれない。でも、今聞かねえとダメな気がして。

 震える声を必死に抑えてそう聞いたら名前先輩は、何でだろうって言って首を傾げた。まさかそんな答えが返ってくるとは思わなくて、変に肩に力入れてたのがふっと抜けた。今ならもうひとつ聞ける。

「あの、もういっこ聞いても良いですか?」
「何?」
「スガさんから聞いたんスけど、その、朝に俺の話してたって」
「あ、そうそう。ちょっとだけね」
「それ、何話してたんスか?」

 まさかこれがきっかけになるなんて、この時の俺は思ってもなかった。

「あのね、そのー……最近、飛雄くんが格好良く見えるなって話してたの」
「え」
「よく分からないけど、飛雄くんが私をボールから守ってくれた時からそうなの。でも嫌な感じじゃなくてね。一くんもそう見えるのかなと思って学校の時は見てたんだけど、何時も通り可愛かったの」
「……せ、せんぱ――」
「どうしてかな?」

 どうしてかって、それは――俺、どう答えたら良いんですか。

 もしかしてなんて思うのは俺が自惚れてるからで、でも名前先輩はそれを分かってなくて。恋愛なんてしたことねえ俺がどうこう言える訳でもなくて。でも、もしここを逃したら、きっと。

「……もう、チャンスなんて来ねえ」
「え?」
「っ」

 その時、俺の頭に浮かんだのは名前先輩と初めて会ったあの時間。

 努力は結果になる、なんて簡単に言える人。貰ったスポドリが妙に熱くて、でも手離せなかった。もしあの時、この気持ちに気付けていたら――。

「と、びおくん……?」
「すいません、俺……恋愛したことないんですけど、男なんで」
「え……」
「名前先輩にそう言われると、我慢出来なくて」

 こうやって小せえ体を抱き締めることが出来たんじゃないかって思う。

 顔を真っ赤にして俺の腕の中にいる名前先輩が可愛くて、手離したくねえ。でもきつく抱き締めると潰れそうで怖いから、少しだけ力加減して抱き締めた。

「……名前先輩のことが、好きだから」
「飛雄くん……」
「っスンマセン! でも名前先輩の好きとは、違い、ますから!」
「!」
「だからその、名前先輩のそういう気持ち聞いて嬉しかったんでつい」
「どうして? やっぱり格好良いって思われると嬉しい、の?」
「は、はい」

 だってそれは、男なら誰だって好きな人からは思われてたいと思う。恋愛した事ない俺だってそう思うんだから、きっとそうだと……思うはずだ。

「そっかー……うん、分かった」
「え、何がですか?」
「もうちょっと考えてみるね。引き止めちゃってごめんね」
「あ、いえ。その……こっちこそスンマセンでした」
「ううん。じゃあね、飛雄くん」

 そう言って家に入って行った名前先輩は、何か困ったような……でもどっか嬉しそうな顔してたのを俺はしっかり見ていた。

  

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