何時もの学校、何時もの練習。そして最近毎日来てる名前先輩。
何日か前に俺が抱き締めたから来ないかもしれねえなんて思ってたけど、そんなことなくて名前先輩は何時も通りに来てくれる。結構嬉しい。でも、何か……何かが何時もと違うような気がした。
「気のせい、か?」
「影山、次!」
「オ、オス!」
ピッと宙にボールを投げて打ったジャンプサーブ。何時もよりキレがあってコースも思った方に飛ぶ。何か今日、調子良いな俺。
「ねえ孝支。今日は飛雄くんと一緒に帰っても良い?」
「えっ」
「えっ」
部活が終わって姉さんに呼び止められたと思ったらそんなことを言われた。ちょうど近くに本人である影山も居て、俺と同じように驚いてた。いやまあ俺は全然構わないんだけどというかむしろ行ってくれた方が影山としても俺としても凄く嬉しいんだけど。
「え、姉さんどうしたの」
「ちょっとお話したいことがあるの。それだけ」
「そ、そう……うん、俺は別に大丈夫。影山は?」
「お、俺も平気っスけど」
「じゃあ決まり! 部室棟の下で待ってるね」
そして何時も通りパタパタと駆けて体育館を出て行った姉さん。その背中を呆然として見送ってる影山に視線を向けた俺は、影山が持ってたモップを取り上げた。
「えっ!?」
「今日は先帰れって」
「え、でも」
「大地には言っとくし、他の皆には適当に理由つけとくから。姉さんの気が変わる前に行った方が良いって」
「……あ、あざす!」
「おう」
勢い良く頭を下げて体育館を出て行った影山。それを見送る俺に何かあったのかと声をかけてきたのは大地だった。
「後輩の初恋を応援しようと思って先帰らせた」
「何かあったのか」
「姉さんが影山と一緒に帰りたいってさ」
「……それ嘘じゃないよな」
「ないない。だからさ、今日くらいは良いだろ」
「今日だけな。他の連中には何て言っておくかどうかだけ考えるか」
そんなことを言いながらちょっとだけ嬉しそうな大地。理由なんていくらでも考え付くから問題ないってなんて言う俺は――ほんのちょっとだけ寂しく思ってた。
もしかしたら俺にべったりだった姉さんが、他の男と一緒にいるようになるかもしれない。……なんて今まで応援しといてそれはないとか言われるかもしんないけどさ。
「あれ、後片付けは?」
「あっ、えっと……今日は良いって言われたんで」
「そうなの? それなら良いけど……じゃあ行こっか」
「は、はい!」
名前先輩、何時も通りだ。あんなことを言われて何かあるのかと思ってたけど、それもねえ。……スガさんが言ってたというかちょっと違うけど、その、気が向いたからとか、か?
「……」
それでも嬉しいことには変わりねえけど。
でも違うことと言えば、何時もよりちょっとだけ名前先輩が静かってことくらいだ。
「あ、此処に寄っても良い?」
「え? あ、はい」
そんなことを考えながら歩いてたら名前先輩が声をかけてきて、その先には公園があった。特に予定もねえしと思ってそう頷くと名前先輩は嬉しそうに笑って、道からは少し離れている公園の奥にあるベンチに座る。手招きされて俺もその隣に座ると、名前先輩は少しだけ肩を揺らした。
「あのね、飛雄くん」
「はい?」
「私の家に来た時に飛雄くんが言ってたことだけど、ちょっと考えてみたの」
「え、あ……はい」
あれから今までそんな話しなかったから忘れられたんだと思ってた。でもまさか、考えてくれてたなんて思いもしなかった俺はかなり驚いて、それにちょっとだけ怖くなった。
あの話を考えたってことは何かしら……答えを出したってこと。
「好きの意味の違い」
「!」
「飛雄くんに感じる好き、ちょっと違うなって」
「え」
違うって、どういう意味だ。
「潔子ちゃんとか孝支とか一くんとか……ちょっとだけ及川とか。好きって思うのにそれと飛雄くんのは違うんだなって」
「え」
「それにね、他の人はきらきらして見えないの。飛雄くんだけそう見える。格好良いなって思うのも」
飛雄くんだけ。
「だから多分、これが飛雄君が言う好きってことだと思うの。だから私、飛雄くんのことが好き」
首を傾げてそう言った名前先輩。夢なんかじゃねえかって思ったりしたけど、絶対そうじゃねえ。だって今、俺は目の前の小せえ体を抱き締めてる。
「飛雄くん」
「っ好き、です! 名前先輩のこと、俺も。だから、その……付き合って、もらえませんか」
「付き合う?」
「か、彼女として!」
何処に行くんだなんて言いそうだった名前先輩に俺が慌ててそう付け足すと、名前先輩はそっかと嬉しそうに笑ってひとつ頷いた。
「うん、喜んで」
「っ――!」
こんなに辛い現状維持ってあるのかって思った時も正直あった。
「好き、です」
「うん。私も好きだよ」
こんなに無防備で自分よりデケエ男に対して普通に可愛いとか言える人を好きになって辛いとか思うこともあった。
「好き、です」
「ふふ。別に敬語とか要らないのに」
でも、それって全部この時が来るまでの道の途中だったわけで。
「……好きだ」
「……ちょっとドキドキするかも」
「!」
そう思うと悪くないって思う。そう思う俺はかなりこの人に参ってるような気がしてならねえけど、それも悪い気はしない。
「……可愛い」
「飛雄くんも可愛いかも」
「え」
「顔、真っ赤」
「!」
今もこうやって可愛いとか言われてるけど、それでも名前先輩――。
「名前さんの方が、その、可愛いと思う」
「!」
名前さんに初恋をして、無防備な名前さんとこうやって傍にいて。
「俺、名前さん好きになって良かった」
「……うん、私もそう思うよ」
凄く、幸せだって思う。
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