「……なあ大地」
「おう」
「様子、おかしいよな」
「それ思ってるの俺だけかと思った」
「うん、俺も思ってた」
日曜明けの早朝練習。コート外で部員達を見ていた澤村と菅原はとある部員の異変を素早く察知していた。二面コートの片側、何時ものように一番乗りを競い合って第二体育館に来る新入生。何時もであればこれくらいのことはそつなく熟し、セッターとしての実力が十分な彼があらぬミスを繰り返していた。
「お前えええええ! 今日は顔面八回目だぞ!」
「っうるせえ! お前が飛び過ぎなんだよボゲエ!」
「意味分かんないこと言うな!」
「何あれ。何時も以上に煩いんだけど」
「ねー」
これはどうしたものか。不自然な程に不調過ぎる影山の様子に、澤村と菅原は顔を見合わせた。遠巻きに見ている月島と山口の言う通り少し騒がしいのも確か。何だ何だと田中と西谷はカラカラと笑っているが、東峰はソワソワして落ち着かない。
仕方がないと菅原が腰を上げて日向と影山の言い合いを落ち着かせると、日向には澤村のレシーブ練に付き合ってもらうことにして彼はそのまま影山をコート端に連れて行った。
「この辺で良いべ。日向と喧嘩でもした?」
「いえ、別にそんなことはないッスけど……」
「じゃあ体調悪いとか?」
「……」
「え、そっち?」
ちょっと意外と言いたげな菅原の顔を見た影山は勢い良く首を横に振ると、何かを物凄く考え込んでいるように眉を寄せて重々しい声色で菅原の名前を口にした。それを聞いた菅原は少しビクリと肩を震わせたが気を取り直して何かあったのかと再び聞くと、影山は言いづらそうにしながらもゆっくりと口を開く。
「……俺、最近おかしいっていうか」
「何かあったとか?」
「……その、ついこの前の日曜何時もの通りランニングしてて。靴紐切れた時に偶々通りかかった女の人に声かけられて」
「うん」
「何かあったのか聞かれて靴紐切れたって話したら家から靴紐持ってきてくれて、ついでにスポドリ貰って。それで何時も部屋の窓から俺のこと見えてたらしくて、頑張ってるの格好良いって言われて」
「……うん?」
最初こそ影山の話を真面目に聞いていた菅原だが、何かがおかしいことに気が付いた。しかし至って真剣に話をしている影山を止めるわけにもいかずそのまま話を聞く。
「偶々外で見かけた時、俺が道の真ん中でしゃがんでたから、気になって声かけてくれたらしくて。俺みたいに真っ直ぐに前を見て頑張っている人って素敵だと思うとか、努力は結果になると思うって言われて」
「……」
「その後どうやってその人と別れたとか喋ったとか覚えてなくて。気付いたらスポドリ握って道に立ってました」
「……おう」
「それから何か、妙にその人の笑顔とか声とか忘れらんなくて。バレーとメシのことしか考えてなかったのにその人まで頭にずっと残ってて調子悪いっていうか……」
これ、何なんスかねと続けた影山の肩を掴んだ菅原は微笑ましさや申し訳なさを含んだ笑顔を浮かべた。
「……何か俺の方がゴメン」
「え」
「影山って思った以上に純粋だった」
「え」
「それ俺の見当違いじゃなければ、一目惚れってやつだと思う」
菅原の模範解答を聞いた影山は数秒間フリーズした後、面白いくらいに顔を赤くさせた。
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