……いやいやいや、落ち着け。日曜の早朝に会ってその、靴紐とスポドリ貰って何か、その……ひ、一目惚れした人が烏野に来た。此処までは大丈夫だ。それで俺と会ってた事覚えててくれて嬉しくなって――それで、スガさんの双子のお姉さんで青葉城西の三年生。
「……世間って狭いっスね」
「俺もそう思う」
あれから影山も落ち着いて、先程までのミスが嘘のように何時もの調子を取り戻しつつあった。それもこれも菅原が偶々書類を名前のファイルに入れてしまいそれを偶々名前が届けに来たことによって判明した事実によるものではあったが、捜索が難航すると思われていた相手が判明しただけ一先ずは良しとするしかない。
その一連の騒ぎで何となく状況を察したのは潔子と月島だけ。潔子は元々騒ぎ立てる性格ではないのでそのままにしておいたが、月島には澤村がきつく言い聞かせたのでこの件に関してはからかう事も嫌味を言うこともないと思われる。その騒動の張本人である名前は事情を知るはずもないので、体育館の端で澤村と何かを話していた。
「その……スガさん、名前先輩のことなんスけど」
「ああ、別に俺は気にしてないしむしろ応援するつもりだからさ! ……応援だけで何とかなれば良いんだけど」
「え、それどういう意味ですか?」
「うーん……」
可愛い後輩の初恋。影山は悪い奴ではないし姉を預けるには問題ない相手だと菅原は思っているが、それだけで何とかなれば話は早い。しかしそれだけで何とかならないことを知っている菅原、そして付き合いが長い澤村と潔子もおおよそ察しているはずの問題点がひとつあった。
「でも説明しにくいんだよなあ……」
「どういうことですか?」
「うーん……取り敢えず練習終わってからゆっくり話すよ。それまでにどう説明するか考えるだけ考えとくからさ」
「……?」
またしても曖昧に笑ったスガとそれに首を傾げている影山。それを遠巻きに見ていた名前は微笑ましそうに笑って、それを隣にいた澤村がどうかしたのかと声をかければ彼女は彼を見上げる。
「何か可愛い子だなと思って」
「え、影山が?」
「うん。あんなにころころ表情変える男の子ってそんなにいないし……一くんみたい」
「……青城の副主将か」
前々から聞いてはいたがまさか其処で繋がるとは思っていなかった澤村がやや苦笑いをしたが、名前はその意味に気付くことなくにこにこと笑っている。その様子を見てこれはなかなかに高い壁だと澤村が思ったが、それはコート内でトスを上げている菅原も同じように思っていた。
「……鈍い?」
「そう! 鈍いし変なところで感が良くないし何より恋愛だけじゃなくて全部に疎い。これが俺の姉さん」
「……え、俺並みってことっスか」
「それ以上だな」
練習を終え影山と菅原、澤村だけが残っている部室内。菅原の説明を聞いて自分なりに解釈をした影山の言葉を澤村がばっさりと切り捨てた。
「そもそも好意を向けられていることに気付かない」
「……マジっスか」
「マジ。だからさ、応援するだけで何とかならない可能性が高いっていうか。まあでもそろそろ姉さんも彼氏作らないと俺が心配だし、影山なら何だかんだでしっかりしてるから姉さん預けられるし。頑張ってほしいわけ」
「は、はい」
「だから頑張れ」
「……え、それだけっスか」
「うん、それしか言えない」
それ以上に何かアドバイスはしたくても出来ないし。
拍子抜けした影山に菅原は本当にこれしか言えないと続けて、外で待たせている名前が心配だからと先に部室を出た。階段を降りた先には名前が一人で待っていて、菅原が姿を見せると表情を明るくした。
「もう、遅いよ孝支」
「ごめんごめん。ちょっと話してたんだ」
「大地くんと飛雄くん?」
「そう。寒いから早く帰ろっか」
先に歩き出した菅原の隣をついていく名前。まさか自分の姉が後輩に一目惚れされているとは思ってもいなかった菅原だったが、知らない男に持って行かれるよりは信用出来る上に姉よりもしっかりしている影山を応援してやりたい気持ちは大きい。
「姉さん、影山のことどう思う?」
「うん?」
全部において疎い名前。一般的に視ればかなりストレートな質問だがその意味や意図に気付かないことを知っている菅原がそう訊ねると、名前は澤村くんにも同じようなこと言ったかもと呟いてそれに答える。
「凄く可愛い子だと思う」
「……うん、それで?」
「あのね、こっちのバレー部の一くんみたいで可愛いかなって。表情がころころ変わって凄く可愛いよね」
「……そっか、うん。分かった」
影山、やっぱりうちの姉さんはかなり強敵だ。
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