「――という訳なの」
「……つまりお前、烏野のセッターが可愛いって言いたいのか」
「うん」
「アイツも可哀想な奴だ……」

 岩泉が小さく呟いたその言葉はざわついている教室内で掻き消えて名前の耳には届かず、当の本人は機嫌が良さそうにパックジュースを口に運んだ。

 菅原に忘れ物を届けた翌日、昼休みに岩泉を捕まえた名前はお昼がてらそれを彼に話して聞かせていた。及川は偶々購買へ行っている為に偶々この場にはいないがその内帰ってくるので、その間に名前は岩泉に嬉々としてその話をしていた。

「まるで一くんみたいね」
「はあ?」
「ころころ表情が変わって可愛いの」
「……」

 名前の話を聞いて何となく影山側の事情を察していた岩泉はつくづく可哀想な後輩だと内心で思いつつも先程のように呟いたりはせず、自分の弁当を口に運ぶ。するとちょうど教室に及川が帰ってきたのか名前があっと声をあげて、それに重なるように及川も同じように声を上げた。

「あっ! ちょっと岩ちゃん、名前ちゃんが来てるなら教えてよ!」
「別に直ぐ其処なんだから言わなくても良いだろ」
「一分でも名前ちゃんと一緒に居たいの!」
「私は及川と一緒に居なくても良いよ?」
「え……」
「ザマァ」

 素直過ぎるくらいに素直な名前の言葉に及川がガーンとショックを受けた表情をすると岩泉が鼻で笑って、それに及川は涙目でキッと睨み手近な椅子を引いてきて名前の隣に腰掛けた。

「それで何の話してたの?」
「飛雄くんの話」
「……は?」
「さっき一くんから聞いたんだけど、二人って中学校で部活一緒だったから知ってるんでしょう?」
「え、まあ嫌ってくらい知ってるけど。何でアイツの話?」

 内心はかなり嫌そうだが表面に出さないように努めている及川が意味が分かんないと言いたげにそう言うと、名前は先程岩泉に話して聞かせたことをもう一度繰り返す。それを聞いて行くうちに及川の表情は段々と曇っていくが、名前は嬉しそうに話している為にそれを遮るわけにもいかない。取り敢えず最後まで聞いてはみたものの、予想通り機嫌は急降下した。

「……へー、そういうこと」
「うん。今日も烏野にお邪魔しようかなーと思って」
「えっ!?」
「ん?」

 どうかしたのと小首を傾げる名前と、思わず牛乳パンを持つ袋に力が入っている及川。それを近くで見ていた岩泉はコイツもコイツで可哀想な奴だと思いつつも助けるつもりは全くなく、その二人のやり取りを見ながら弁当を口に運ぶ。

「今日は俺の練習見に来てよ!」
「どうして?」
「いや、どうしてって……」

 最初から名前ちゃんに遠回しなアプローチが効かないことは百も承知だけど、何で分からないかなあ……。それは、名前ちゃんに格好良いところ見せたいからに決まってるデショ。それなのに何で名前ちゃんに一目惚れしちゃったっぽいトビオちゃんのトコに、はいそうですかって送り出してあげないといけない訳!?

「あのねえ……名前ちゃん。言わなきゃいけないと思っててずっと黙ってたケド」
「ん?」
「鈍すぎ」
「何に?」
「……うん、今日はもう良いや」
「ザマァ」




「影山。今日、姉さん来るってさ」
「えっ!」

 偶々日直で遅くなった菅原が同じ理由で遅くなった影山に伝えると彼は嬉しそうな反応を示し、微笑ましくなるくらいに目を輝かせる。それに気付いた影山は慌てて表情を引き締めたが嬉しそうな様子は変わっておらず菅原はクスリと笑った。

「良いよ、別に隠さなくても」
「うっ……スンマセン」
「良いって良いって。ほらさっさと着替えて練習するべ!」
「オス!」

 ――って影山を元気づけて来たんだけど、それは出オチだった。

 ソワソワしている影山と一緒に第二体育館に行けば中は何故か賑わっていて、それを不思議に思いながら俺がドアを開けると其処には既に姉さんがいた。まだ面子が揃ってないから練習が始まってなくて、その一角で姉さんと日向が楽しそうに話をしていた――というか日向が姉さんに頭を撫でられていた。

「う、えっと……!」
「翔陽くんも可愛いねー。髪の毛ふわふわ」
「え、そそそそうですか!?」
「うんうん」
「……!?」
「か、影山。取り敢えず落ち着こう。姉さん何時もあんなんだから……」

 そう何時ものこと。前は触り心地が良いとかで大地の頭撫でてたし……。あんなことが出来るのは姉さんくらいだ。

「……」
「影山?」
「……てめえええええ!」
「ええ!?」

 とうとう我慢出来なくなったらしい影山が日向に突撃するとそのままアイツを投げ飛ばした。何時ものことなので綺麗に着地した日向は投げ飛ばされた意味が分からずキャンキャン吼えていて、それも気に入らなかったらしい影山がやんのかボゲエと叫んでいる。

 ……うん、まあこれも何時ものことなんだけどさ。

「姉さん、来てたなら連絡くれって言ってあっただろ」
「あ、孝支。もう練習してるかと思ってしなかったの。それにしても……」
「ん?」
「飛雄くんと翔陽くんって仲が良いんだね」
「……あー、そうかもね。うん」

 こういう時、姉さんが全方面に鈍くて助かると本気で思った。

  

prev next