最近、孝支の様子がちょっとおかしい……ような気がする。前は気にしなかったことを気にしだしたりとか、飛雄くんのことをよく聞いてくるようになったとか。一くんのことは全然気にしなかったのにどうしてだろう。

「……うーん」

 私が孝支の部活見に行くようになってからだから、帰りのこととか色々気にしているのかも。うん、多分そう。だって孝支と一緒に帰ることも増えたし時間調整とかしてるのかもしれないし。あれ、でもこれじゃ飛雄くんのことが説明出来ない。……あ、知り合ったばかりだから仲良くなれるか気にしていてくれているのかも。そんなことしなくても、私そんなに子供じゃないのに……。

「うん、でもさすが孝支」

 可愛い弟がいて本当に良かった。

 そう思いながら、既に練習が始まっているはずの体育館のドアを開けようとしたら妙に騒がしいことに気が付いた。直ぐに開けようとはしないで様子を見る為にゆっくり開ければ、騒がしさの原因は直ぐに分かった。

「おいクソ眼鏡! ふざけてんのか!」
「はあ、何が? 君の方が集中してないのが悪いんデショ」
「はあああああ!?」

 飛雄くんと月島くんが喧嘩してる。周りの皆は――あれ、孝支というか三年生と二年生がいない。進路指導か何か別の用事で遅くなっているのかな。

「ああもう二人共いい加減にしろって!」
「ツッキー、そんな奴相手にするなんてどうかしてるって!」
「煩せえ!」
「煩い」

 二人に睨まれた翔陽くんと山口くんはビクリと震えて黙ってしまった。ああもう、どうして仲良く出来ないのかな。

「こら!」
「!?」

 私が声をかければ飛雄くんと月島くんがビクリと震えてこっちに目を向けた。飛雄くんは顔が青くなってるような気がする。

「飛雄くんと月島くん、其処に座りなさい」
「オ、オス……」
「……」

 取り敢えず二人を座らせて翔陽くんと山口くんを離れさせた私は、二人の話を聞くことにした。何が行き違いがあったのかもしれないし、ちゃんと聞かないと。

「それで、何があったの?」
「……コイツ――つ、月島がいちいち突っかかってきたんで、それで」
「何言ってんの。君がいちいち文句言ってきたからデショ」
「んだと!?」
「あのね、二人共……」
「あれ、良いのかな名前先輩の前だけど?」
「ぐっ……! お前……!」
「僕は別にいくらでも言い合いして構わないよ」
「ちょっと……」

 何が原因かは分からないし聞いていないけれど、こちらの話も聞かなくなるのは――どうなの。



「うわー、結構遅くなっちゃったな」
「まあ仕方ないだろ。まあでもアイツらならちゃんと練習もしてるだろうし――ってあれ、田中と西谷?」
「他の二年もいるな。おーい、どうし――」

 ぴりっ。進路指導で遅くなってしまった澤村と菅原、東峰が揃って体育館前で感じた空気の音がこれだった。

 体育館に入れずにいる彼らの理由が直ぐに分かった菅原がそっと体育館の中を覗くと、少し離れた場所に子羊のように震えている日向と山口の後ろ姿が最初に確認出来た。そして其処から遠くない場所に正座させられている影山と月島、そして自分の姉である名前が立っていた。

「あー……何やったんだろ。取り敢えず静かに入れば大丈夫だと思うけど」
「……そうするか」
「ええ! 俺行きたくない……」
「良いから来い」

 苦笑いしている菅原の声に腹を括ったような表情をしている澤村が頷き、渋った東峰を連れて体育館へ足を踏み入れる。それに続いて二年も体育館に足を踏み入れればようやく会話が耳に届いてきた。

「……それで、どういう話か聞かせてもらえる?」
「うっ……コイツ――つ、月島が俺のトスにだから駄目なんだってケチつけてきたんで、それで……」
「そうなの?」
「! ……影山が無茶なトスしてくるんで、つい」
「……」

 そんなことでいちいち喧嘩していて練習しないようじゃ、上手くならないと思うけど?

「!」
「……」

 満面の笑顔でそう言い切った名前にビクリと体を震わせた影山と月島は声も出なかった。



「二人共、姉さん怒らせたら駄目だって。怒らせたら大地より怖いんだからさ」

 あれから名前のお説教を受けて解放された影山と月島にカラカラと笑いながらそう言った菅原。確かに澤村よりも恐ろしいことを身をもって体感した二人は反論することができない。

「いや、あの……そうは見えなかったって言うか」
「まあ、それはそっか。実際体感したから分かると思うけど、大地でもビビって近付こうとしないレベルだからさ」
「そうなんスか……」
「あれでもまだ本気で怒ってないから、今後は喧嘩控えた方が良いかもねー」
「え」

 そう言って名前の方に歩み寄っていく菅原。最後の最後で爆弾を投下された影山は呆然とその背中を見送ることしか出来なかった。

  

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