頼り甲斐のある大きな背中を視線で追いかけて。
短く切り揃えた黒髪が偶に寝癖で跳ねているのを見つけて、ちょっとだけ可愛く思えて。
ああ、やっぱりこの人が好きだなって何時も思うの。
「……」
でもそれを言うことは、どうしてもできなかった。
「名字」
「!」
本を広げたままぼうっと考え事をしていたら急に声をかけられて凄く驚いて、机から本を落としてしまった。慌てて拾おうとしたら声をかけてくれた人――同じクラスの菅原くんが拾ってくれた。
「はい」
「あ、ありがとう……」
「びっくりさせてごめん。……名字、また大地見てただろ?」
「! あ、う……」
菅原くんは優しいけど、ちょっと意地悪。慌てる私を見て菅原くんはクスクスと笑うと、私の前の席の椅子を借りて其処に座った。本なんてもう見る気分じゃない……というよりも前からそんなに集中して読めていなかったから、私はそれをそっとしまった。
「あの、菅原くん」
「大丈夫大丈夫、気付いてないよ」
「そ、っか……」
私が澤村くんを好きなこと。
それを本人に知られたらもう終わりだと思ってる。だってそんなに話したこともないし関わり合いもない。何時も、そっと見つめているだけ。……自分でもちょっと気持ち悪いと思っていても話しかける勇気がない。
……そんな私の視線に気付いた菅原くんが声をかけてくれなかったら、こうして菅原くんとお話しすることもできなかったんだけど。
「いい加減さ、ちょっとだけでも話してみたら?」
「む、無理……! だ、だって何を話せば良いか分からないし……」
「そんなの適当で良いんだって。授業のこととか……あ、バレー部の練習見たいとかさ!」
「!!」
「名字。息、息止まってる」
「う……」
そう言って苦笑いする菅原くん。本当に呼吸が止まっていた私は相当な臆病で、話しかけることすら出来ない。だって澤村くんはしっかりしているし、きっともっと、ちゃんとお話できる子の方が良いに決まってる。
私なんて上手にお話できないから。その……多分、というか絶対に逃げちゃうから話す話さない以前の問題。
「……ごめんね、菅原くん」
「いや、良いけど……。名字は可愛いんだから自信持って良いと思うけどなあ」
「そ、そんなことない。絶対ない」
「いやだから――うん、まあ今は良いか」
とにかく、ちょっとでも話しかけてみないと進むもんも進まないよ。
そう言って頬杖をついた菅原くんはにっこり笑ったけど、私はそれに頷くことができなかった。この気持ちは嘘じゃないのに、私が臆病なのがいけないの。それも分かってる。
でも、どうしても怖くて踏み出せない。
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