ダンスの練習をしたくて少しだけ……ううん、かなり早い時間に学校に来て本校舎から少し離れた校舎裏へ足を向けたけど、その前にちょっとだけ第二体育館を覗いてみることにした。
「……」
「おら、声出せー!」
「オス!」
窓越しに見えたのは男子バレー部の早朝練習。やっぱり新しい人が入ってる……何か凄く賑やかになった感じ。男子バレー部は凄く個性的な人が多い部活だとは思っていたけれど、一年生も個性的な人が多そう……というか、凄く背の高い子が二人居いる。
「澤村くんより身長あるかも……」
「澤村が何?」
「!!」
真剣に見過ぎていたから後ろに誰かがいることに気付けなくて、慌てて後ろを振り返った。すると其処には男子バレー部でマネージャーをしている潔子ちゃんが荷物を持って立っていた。……良かった、知っている人で。
これがもし仮に菅原くんだったら絶対に意地悪されていた。とはいっても菅原くんが体育館に居るのはさっき見えていたからそれはないんだけど。
「潔子ちゃん……おはよう」
「おはよう、名前。また澤村見てたの」
「! う、うん……ごめんね気持ち悪いよね」
「そんなことはないけど」
静かに見つめ続ける私はどう見ても不審者なはずなのに潔子ちゃんは首を横に振ってくれた。お世辞でもちょっと嬉しい。綺麗で優しくてしっかり意見も言える潔子ちゃんは男子バレー部でもお花のような存在。
……私もそんな風になれたら、澤村くんとお話出来るようになるのかな。
「今日は早いけど、ダンス部の練習か何か?」
「自主練習だけど……今度のダンス練習しておきたくて」
「名前は努力家ね。また発表やるなら見に行くから日取り教えて」
「う、うん! あ、でも……男子バレー部とか自分の用事を優先してね」
「大丈夫。私、名前のダンス好きよ」
「! あ、ありがとう……」
潔子ちゃんにそう言ってもらえると頑張ろうって気分になる。
何だか嬉しくてふわふわした気分になっていたら潔子ちゃんに頭を撫でてもらえた。何で頭を撫でられているのか分からないけど、凄く幸せ。ダンスも学校ももっと頑張らなくちゃ。
そのまま大人しく撫でてもらっていたら体育館のドアが開いた。それにびっくりして体が固まった私がその場で立っていると、中から出てきたのは――。
「誰かが喋ってると思ったら清水か。……と、あと誰だ?」
「!!」
さ、澤村くんの声……。
ちょうど潔子ちゃんに隠れて私は見えていないみたいだけど、凄く近くに澤村くんが居る。潔子ちゃんは私の頭からそっと手を退けて何か喋っているけれど、それどころじゃない私は頭の中がぐるぐるして上手く物を考えることができない。
ああ、どうしよう澤村くんが出てきちゃうなんて思ってもなかった。どうしよう、どうしよう……。
「ねえ、名前。もし良かったら練習を見て行かない?」
「き、潔子ちゃ、ん……!」
「え、もしかして其処に居るのって……名字か?」
「!!」
潔子ちゃんのお誘い。これが男子バレー部の練習じゃなかったら頷いているところだし、此処に澤村くんが居なかったら少しだけ考えて断ることも出来た。でも今は、そんな余裕はない。
「ご、ごめんね潔子ちゃん。私、練習行かなきゃ……」
「え、でも――」
「良いの! 本当にごめんなさい!」
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ勇気があれば頷くことも出来たんだと思う。でも今は無理、本当に無理。頷くこともできない意気地なしでごめんなさい……!
潔子ちゃんに頭を下げたまま背中を向けるとそのまま校舎裏へ走って行った。
「……行っちゃったわ」
「……」
まさか名字がこんな時間に此処にいるなんて思ってなかった。それにバレー部が練習してる第二体育館近くに足を運んでるなんて考えもしてなかった。
「澤村、貴方も話したいなら自分で行動しなさい」
「……でも名字がああだと、な」
「……本当に女心が分からないのね」
「え?」
それくらい自分で考えなさいと言って清水はそのまま体育館に入って行く。何となくその場から離れがたかった俺がその場で名字が走り去った方を見ていると脇からスガが顔を出して、楽しそうな笑顔を浮かべていた。
「大地、名字と話してたのか?」
「いや、話しかけるも何も逃げられ――ってスガ。気付いてたのか」
「え? ああ、だってちょっと前に窓から顔覗かせてるの見えてたし。大地気付いてなかった?」
「……」
なんででスガが気付けて俺が気付けなかったんだ。
「あー、ごめん。言えば良かったな。たまーにああやって見てるんだよ。ダンスの自主練のついでらしいけどさ」
「そうなのか」
「そう。今日もそれじゃないかな、多分だけど」
にこにこ笑って名字のことを話すスガはとても楽しそうだった。俺に名字のことを教えてくれるのはどういう意味での行動なのかなんて聞く気にもなれない。
「そうか。ダンスの練習か。頑張ってるんだな」
「うん。また発表あるみたいだし」
「!」
ダンスの発表。まだ掲示板にも貼られていないそれを知るスガに驚きつつも羨ましく思った。同性で名字と仲が良い清水ならともかく、スガが知ってる。
当然あれ以来ほとんど名字と話せないまま三年になった俺は、何時スガが名字と仲良くなったかなんて知るはずもない。多分何かのきっかけがあったはず、でもそれを聞くことが怖いと思っているのが本音。。
……俺がこんなに弱気で名字に本気なんだと気付いたのは、名字にあれ以来避けられてから直ぐのことだった。
「そうか、発表か」
「まだ時期は未定らしいけど。大地、見に行くだろ?」
「……ああ、そうだな」
スガと名字の関係。妙に仲が良い二人のことを聞くに聞けないまま俺はスガの問いかけに頷いた。
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