最近、大地の様子がおかしい。
あの告白っぽい呼び出しがあった日からずっと何だか、不機嫌っぽい感じだ。部活じゃ全然そんな所は見せないけど、普段学校で見る大地はそんな感じ。偶に顔を見せに来る旭がそれを瞬時に察してビビるレベルには機嫌が悪い。
「……何があったか聞いた方が早いんだろうけど、大地ってそういうの人には言わないからなー……」
でもいい加減どうにかしないと旭が泣くかもしれない。
ほとんどのクラスメイトが出払っていた休み時間にそんなことをぼんやり考えてたら影が出来て、誰か来たのかと顔を上げたら名字が俺の席の前に立っていた。珍しいどころの話じゃない、今まで一回もそんなことなかった。さっきまっで大地のことが頭から飛ぶ程度には驚いた。
「え、どうかした?」
「あ、あのっ……」
「ん?」
「あ、の……」
「うん?」
「……何でもない」
「いやそこは頑張ろうよ」
何か話があるのかと思って焦らせないように待ってみれば最終的に何でもないと言った名字。立ち去ろうとする名字の腕を掴んで引き止めると、名字は観念したみたいで俺の前に戻ってくるとゆっくりと口を開いた。
「……え?」
小さくて周りの人には聞こえないくらいの声。でも俺にはしっかり聞こえてた。
思わず聞き返すと名字はやっぱり何でもないと言って逃げようとしたけど、俺が腕を掴んでいるからそれはできない。……これ、今までで一番びっくりするかもしれない。
「大地と、話がしたいって……」
まさか、名字からそんなことを言うなんて。
「名字、俺凄く嬉しい」
「え、えと……」
「え、どうしよう。何か本当に嬉しいんだけど……うわ、まさか名字からそう言ってもらえるなんて思ってなかった!」
今まで、無理だ自分にはできない、話なんて出来ないって一点張りだった名字がそんなことを言うなんて!
これで大地の機嫌も良くなるに違いない。俺は大地と話がしたいと言ってきた名字の肩を叩くと、どうにかして時間と場所を作ってやらないと意気込んだ。名字がやっぱり止めるなんて言い出す前に何とかしないと……。
「え、どうかした?」
クラスメイトがほとんどいなかった休み時間。この前の名字とスガのやり取りをぼんやりと考えていた時に俺の耳に飛び込んできたのはスガの声だった。
何を話しているのか気になってスガの席に顔を向ければ、其処に立っていたのは名字だった。こっちに背中を向けているからどんな顔をしてるのかは分からない。でもスガの席に立っているのは間違いなく名字だった。
「あ、あのっ……」
「ん?」
「あ、の……」
「うん?」
「……何でもない」
「いやそこは頑張ろうよ」
苦笑いをして慌てて名字を引き止めたスガ。スガの手は簡単に名字の腕を掴んでいて、またそれに自分が苛立つのが分かった。普通の会話の中での今まで気にしなかったはずの些細なことがいやに目についた。
……こんなに苛々しているのなんて、何時ぶりだ?
今まで苛つくことがなかったわけじゃないが、それでもこんなに長引かなかった。
「名字、俺凄く嬉しい」
「え?」
スガの声で考え込んでいた頭が引き戻された俺が見たのは、スガが嬉しそうに名字の肩を叩く様子だった。
「え、えと……」
「え、どうしよう。何か本当に嬉しいんだけど……うわ、まさか名字からそう言ってもらえるなんて思ってなかった!」
何が何だか分からない。俺が考え込んでる間に話が進展したのか、それとも俺が聞こえない声で何かやりとりがあったのか。でもはっきりしているのは、スガにとってかなり嬉しい何かがあったということとそれが名字が絡んでいるということだけ。
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