0.

「最近、誰かに後をつけられてる気がするの。学校帰り。友達と一緒に居るときは何も感じないのに、別れて一人で家までの道を歩いてると、視線を感じて…足音も、ついてくるの」津美紀が震えながらにそう言った。最初は気の所為だと思っていた、でも最近その気配が強くなっている。絶対気の所為では無い、と。
俺はここ数日、お世話になっている人間の家の留守番役を頼まれていた。その間津美紀は家で一人だったわけだが、電話越しからでも分かる津美紀の憔悴っぷりに「今日帰れるように相談してみる」と一度津美紀との電話を切る。そのまま発信履歴からその人の名前を探し、電話を掛ける。件の相手は1コールで出た。ザザッ、一瞬だけノイズが走る。

「お忙しいところすいません。今時間大丈夫ですか?」
『うん、大丈夫だよ。どうしたの?』
「津美紀が良くないものにつけられてるって言ってて、かなり参ってるみたいで…心配なんで今日家に帰っても良いですか?」
『いいよ。実はこちらも仕事が早く片付いてね、今晩には戻れそうなんだ』
「ありがとうございます」
『――手は必要?』
「…いえ、大丈夫です」

あの人の手を煩わせるものでもないだろう。…というかあの人が手を出したら一帯が更地になる。気軽に手を借りてはいけない人。あの人には劣っても、俺もある程度の場数は踏んでいるし。そう考えていたら、なんとなく俺の考えを察したのか『慢心は頂けないよ』と突っ込まれた。…まぁ多少痛い目を見たことも有った。少し反省する。

「慢心せず最初から殺す気で行け、ってことですね」
『そこまで殺気立たなくても…いや、津美紀のことを大切にしてる君のことだから仕方のないことか。あんまり酷いとシスコンになるよ』
「それは無いです」
『まぁ津美紀はブラコンだけどね』
「それも無いです」
『この前自分で言ってたよ?』

マジかよ…と思わず言葉が漏れた。『うちの恵は自慢の弟です!って意気揚々と語っていてね』「ちょ、わりと本気で恥ずかしいんでやめてくれませんか!」と思わず声を上げる。いくら世話になっている、気安い人間であってもそういう恥ずかしい話は止めてもらいたい。家帰ったら津美紀と話し合いだな、この件について。

『仲がいいことは良いことだよ。特に、君自信を理解してくれる人間は貴重だ。二人きりの家族なんだ――大切にしなさい』
「…はい。ありがとうございます」

夏油さん。そう言って電話を切った。
さて、承諾も貰ったし帰るか。立ち上がり、立派な中庭に下りれる掃き出し窓を閉めようとしてふと、ここが閉まってる所を見たことがないなと思い出した。どうせ入ってくるような人間は居ないし、人間じゃないものに関しては物理的な窓で締め出そうとしたところで無意味だ。そもそも敷地に悪意があるものは入り込めないようになっている。雨も降らないだろうし、ならそのままで良いかと伸ばしたてを戻した。
カァ、庭に居た烏が啼いた。

「今日は帰る。またな」

カァ!もう一度烏が啼いた。バサリ、羽ばたく音が聞こえたと思えば此方に飛んでくる烏。そして優雅に俺の肩に止まる。

「…連れては、帰らねぇぞ」
「カァ」
「…途中まで、だからな」

烏を肩に乗せたまま、玄関へ向かう。靴を履き玄関から外へ出て、引き戸の玄関を閉めて鍵を…いや、ここは俺の家じゃない。癖で家の鍵を取り出そうとしてしまった。この玄関には鍵穴など無いのに。閉めた戸に手を掛けて、引く。ガタン、鍵のないはずの戸は人の侵入を阻むようにピクリとも動かなかった。

「…オートロックって便利だよな」
「カァ?」

古き良き日本家屋のドアに、勿論そんなものは付いていないのだが。
色々規格外な夏油さんの家について、あまり深く考えないようにしている。考えたって仕方がないことだからな。
さて、と戸に背を向けて歩き出す。すぐそこにある鳥居を潜る。

そして景色は反転する。

今まで明るかった空が、一瞬にして夜に変わる。そして、見知らぬ町並みが眼前に広がる。点々と家々に明かりは灯っているが、一切音は聞こえない。誰も居ない夜の町。そんな町を慣れたように歩く。
公園の前の掲示板。数枚の紙が貼られている。なんでもない、町内のお知らせとかいうやつ。
来月は〇〇祭りが××神社で開催されます。
猫の里親を探しています。
ゴミ出しは必ず朝に。深夜は■■■が居るので止めてください。













人を探しています。
○月×日 学校下校時から行方がわかっておりません。
もし情報をお持ちの方は××警察署までご連絡をお願いします。
年齢 15歳(失踪時)
性別 女
身長 ××
特徴 黒髪。失踪時は一つ縛りの髪型
服装 浦見東中学校制服

写真が載っていた。見覚えのある顔だ。
名前の欄には「伏黒津美紀」と書かれていた。


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1.

いつの間にか、家の前に居た。肩に乗っていた烏も居なくなっていて、多分戻ったのだろう。掲示板から剥ぎ取った1枚の紙、ぐしゃぐしゃに丸めてそのまま拳の中に閉じ込めていた筈だが、手を開くとそこには何もなかった。
はぁ、重い溜息を吐く。後ろポケットから鍵を取り出し、鍵穴に押し込める。がちゃん、鍵が開く音と、ドアの向こう側から玄関へと近づく足音が聞こえた。ドアを開ける。

「ただいま」
「…おかえり恵、ごめんね。夏油さんの留守任されてたのに呼び戻しちゃって」
「いい。あの人も今晩帰るみたいだったし、それに留守番なんて元々必要なかっただろうし。あの人も気にしてない」

靴を脱いで、家に上がる。
津美紀の顔を見て、やはり少し顔色が悪いなと思った。
小さな居間、座布団が2つ。ここが俺たちの家。そう思うと安心できる。俺が座ると、津美紀も正面に座り、そしてほんの少しだけ安心したように強張った顔を緩めた。

「悪い。普段だったら津美紀に玉犬でもつけて護衛させるんだが」
「夏油さんの家に居ちゃ、無理だよねぇ。あそこ遠いもん」

津美紀もよくわかっている。夏油さんの家は遠い。物理的な距離ではなく、そもそも存在している次元が違う。境界を2つも越えてしまっては、俺の玉犬は津美紀の元へと届かない。今度から、式神じゃなくて縁のあるヤツをつけるか。…夏油さんに怒られるかもしれないが烏連れて帰ればよかったな。アレは随分俺に好意的だ。

「学校帰りにつけられてるって話だったけど」
「う、うん。交差点で友達と別れて一人になるんだけど…そこから誰かがついてくるような気が…気のせいじゃなくて、多分何かがついてきてるの。近づかず、一定の距離で。…家の近くになると、居なくなるんだけど」
「まぁウチには近づけないだろうな」

家の半径1キロ圏内には目隠しの結界が張られている。悪意あるものと、呪霊を祓っているとかいう呪術師の認識を阻害するもの。夏油さんが態々俺たちの為に張ってくれたものだ。「まぁ唯一もしかしたら見破れる呪術師が居るかもしれないんだけど…アイツの目でさえ凝らさないと見えないはず」と楽しそうに言っていたことを思い出す。
悪意あるものは家には近づけない。つまり、津美紀についてくるものは悪意を持っているということになる。

「何時からつけられてるって気づいた?」
「…多分、一週間くらい前。最初は、気づいて振り返ると居なくなってたの。それが日を重ねるごとに振り向いても姿は見えないけど多分居て、ずっとついてきて…今日は家の近くまで」
「慣れたのか、もう定めたのか。実害が出る前で良かった…お前、もうちょっと早く知らせろ。3日くらい前だったらまだ俺も家に居ただろ」
「だ、だって…」

今にも泣き出しそうな津美紀に、追撃するほど俺も鬼じゃない。
最初は振り向いたら居なくなっていた、それが今日に至っては家付近までついてくる。明日は、多分危ないな。本当にギリギリの知らせで心臓に悪い。そもそも、夏油さんの家に留守番する前の日に津美紀の様子が少し可笑しいと思った時に聞き出せばよかったんだ。
今更後悔したところで意味はない。今後のことを考える。…いや、考えるまでもないのだが。

「明日一日玉犬を津美紀の影に忍ばせておく。下校の時は上から監視するし、明日確実に捕まえる」
「うん、ありがとう。…ねぇ恵、私についてきてるのって…[[rb:どっち > ・・・]]」なのかな」
「俺は見てないからなんとも。人間だったらとっ捕まえて交番前に転がしとくし、そうじゃなかったら祓うだけだ」

そう、ただそれだけの話。俺の大事なもんに手を出すヤツは人間だろうが呪霊だろうが[[rb:妖怪 > ・・]]だろうが容赦はしない。全部殺す。
津美紀の隣へと移動する。津美紀の顔を両手で包んで、親指で目の下の隈をなぞる。くすぐったそうに津美紀は目を細めた。猫みてぇ。そのまま抱きしめて、ぽんぽんと背中を叩く。

「顔色が本当に悪い。今日はさっさと寝ろ、心配事は全部明日片付く」
「…うん、ありがと…」

フッ、と津美紀の意識が無くなり、俺にもたれ掛かる。すぅすぅと小さい寝息が聞こえた。
津美紀の頭を抱え、起こさないように一つ縛りのゴムを取るとぱさ、と長い髪が腕に掛かった。身体を抱きかかえて、津美紀の部屋に向かう。いつもは朝畳むはずの布団が敷きっぱなしだった。寝坊、というわけではないだろう。あの隈だ、寝れなかったはずで…。不安と恐怖で、布団を被ってひたすら耐えていたのだろうか。
津美紀を布団に寝かせる。「ゆっくり、休めよ」それだけ言って津美紀の部屋を後にした。

[newpage]
■.

いたい、いたいいたいいたい!
だれかがさけぶ
いたい痛いイタイいたいいたいあああぁああああああアあああああ



ぐちゃ、ぐちゃ
■がからだをくらう



ばきり、ぼきぼき
■がほねをくだく



かひゅ、ひゅーひゅー
のどからいきがもれる
のどにあながあいてる

ごぼり
ちがあふれでる

みぎうではちぎれた
あしはりょほう■にくわれた



し、ぬ
やだやだいやだしにたくないいたい
なんでどうして、こんな

のこりいっぽんのうでを、のばす
だれか、だれかだれか!
たすけて!!





そうして、いのりが――、
くろいひとかげ。ヒト、ヒトだ!

それにてをのばして、そして
















「なんで、助かると思った?」



―――あ、

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-1.

「最近埼玉のとある地域で呪霊が勝手に消失するんだよねぇ。どっかの呪術師が自発的に祓ってるのかって調べてみても、該当者はなし。呪詛師がなんか企んでそうな感じも特になし。あ、でもちょっとこの地域失踪者がほんのちょっと多いかも。偶々なのかは、ちょっとわかんないなぁ」

行儀悪く教壇の上に足を組んで座る五条先生にいつも通り釘崎は呆れ顔だ。ぎぃ、ぎぎぎ、とちょっと危なそうな音を立てながらも、重いであろう先生の体重を受け止める教壇に「大丈夫かなぁ」と思いながらも先生の話を聞く。

「というわけで今回の任務は勝手に消える呪霊の原因調査。呪霊同士の共食いだったらマズいんだけど、ぱっと見強い呪霊が居る感じでもないし、普通に考えたら正体不明の術師が祓ってるのかなー?って感じ。使えそうな人材だったら勧誘よろしくね〜!呪術界は万年人手不足だから!」
「それ私達の仕事じゃないでしょ」
「一番の目的は原因調査だからね、一応」.


伏黒恵…式神、妖怪使い
伏黒津美紀…一般人。夏油の加護付き
夏油傑…半人。過去神隠しに遭った。
鳥居…境界の入り口
現世…うつしよ。恵達が住む世界
隠世…かくりよ(幽世)あるいは常世。隠世の隅に夏油の家がある。
夜の町…現世と隠世の狭間。現世の町並みが続く。妖怪や異形が跋扈する(イメージ:夜廻り)
三本足の烏…八咫烏。恵を気に入っている。陽に属する為、実のところ恵と相性は良くない。
送り犬…山道を歩いていると後ろからついてくる犬。送り犬の前で転ぶと食われる。玉犬とよく戯れている。
ストーカー…おなかの中へばいばい




夏だからホラーちっくなものを書きたいと供述しており。まぁ怖くないんですけどね。
ふわっと読んでやってください。
ほんのりめぐつみ風味(家族愛です)

@送り犬

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