1.禪院真希の追憶
生まれたときからゴミのような扱いを受けていた。ただでさえ禪院家に女として生まれて、その上呪術界では凶兆とされる双子として生まれ、挙句の果ては呪力を持たない天与呪縛だった。生まれたときから呪われてんじゃねえの私。当然家でも扱いは酷かった。妹の真衣には呪力も術式も有って、羨ましい、よりは私よりマシな扱いで良かったと思った。まぁ結局女ってことで扱いは良くないものだったが。
――過去、自分と同じく呪力を一切持たない天与呪縛の男がこの家に居たらしい。今は居ない。出ていったのか死んだのか、そこまでの話は聞かない。ただ度々「甚爾と同じ欠陥品が」と罵声を浴びせられていたから名前だけは知っていた。どうもこの男、家の人間相手に仕出かしたらしい。家の連中にはそれがかなり癇に障ったらしく、私相手に随分と八つ当たりをするものだ。
甚爾、という男に対して「余計なことしやがって」とかそういう気持ちは一切湧かない。寧ろ家のヤツに何やったんだ?という興味があった。私も連中の鼻を明かしてみたいもんだ。
なんて、非力な女児がそんなこと出来るはずもなく、今日も今日で家のクソどものストレスの捌け口にされていた。一方的な暴力を「訓練」と称する。「訓練に付き合ってやってるんだからありがたく思え」はよく聞く言葉だ。クソ連中に囲まれてボコボコにされて全身が痛くて。
いつも通りの日常だった、はずだった。
「子供虐めて、自分ら暇なん?」
その場に現れたのは禪院直哉だった。
やる気のなさそうな顔で「雑魚は暇でええね、俺なんか仕事帰りなんにねぇ」と言った。何人かは、反射的に謝っていた。相手は次期当主だ、謙るのは当然のこと。でもその内の一人がチッと舌打ちをした。
「当主と同じ術式に恵まれたからって良い気になりやがって。ガキが」
周りの人間の顔が青くなったのがわかった。しかし男の口は止まらなかった。前々から思っていたのだろう、延々と禪院直哉を馬鹿にする言葉を吐き続ける。私はちらりと禪院直哉の表情を伺った。――心底くだらない、といった表情をしていた。禪院直哉はこいつらと違って弱いヤツに興味がないのだろう。そう思ったとき、ざわりと変な感覚が全身に走った。
暫くして、全てを吐き出したらしい男が真っ赤になって禪院直哉を睨んだ。「何か言えよ!次期御当主サマよぉ!」声を荒げる男に禪院直哉はこてん、と首を傾げ「子供虐めて良い気になってる雑魚に何言ったらええん?」と言った。既に理性もなかったであろう男がその言葉に完全に切れ、拳を上げる。それを禪院直哉が受ける前に、男は吹っ飛んだ。数メートル、家の外壁に向かって吹っ飛んで、壁にぶつかってべしゃっと無残に地面に落ちた。「ヒッ」他のヤツらが小さく悲鳴を上げた。
――ぜんぜん、みえなかった。禪院直哉が何をしたのか、全然目で追えなかった。ただ男が吹っ飛んだという事実だけがわかって。いつも私に突っかかってくる連中とは違う。
前 ×