敷地内、誰も寄り付かないような場所にその小屋はあった。作りはかなりしっかりしていて、もしかしたら自分の住まう離れより立派なのではないかと思った。人気は無く、良いサボり場所だと思ったが近づいてみるとぽつんと人一人分の気配をその小屋の中から感じ取った。そりゃあそうだろうな、と禪院甚爾は落胆する。ちゃんと手入れはされているのだ、誰も居ないわけがない。しかし何故こんな敷地の隅に?近づき、格子が嵌められているが開いている窓からそっと中の様子を窺った。

――黒髪の男が、そこにいた。

やけに髪質がツンツンとした男だった。窓に背を向け、顔を見ることは出来ない。
男は只々綺麗な姿勢で部屋の真ん中で正座をしているだけだった。
…何してんだ?いや、何もしていないのか。
外観から見て取れたように、室内も上等な作りにはなっていた。しかし物は殆ど置いていない。部屋の隅に数冊本があるだけだ。そしてピンと来る。ああ成程、ここは檻か。この男はここに幽閉されているのだと。
禪院相手に何をやらかしたんだかこの男は…いや、普通なら放り込まれるのは地下の汚ねェ懲罰房だろう。明確な敵であれば拷問して用が済んだら呪霊に喰わせる、禪院はそういう家だ。ゴミを生かしてやるほどこの家の人間はお優しくは無い。
では、この男は一体。普段なら他人に興味を示さないであろう甚爾は、何故だかこの男のことを知りたくなった。こんなところを家の人間に見つかったら折檻だろう。それでも甚爾は『知りたい』という欲を抑えきれなかった。

「――なぁ、あんたこんなところで何してんだ?」

男の背中が揺れた。次いで、ゆっくりとその男は振り返る。そうして男の顔を見た時、甚爾は「は?」と声を上げてしまった。なんせ瓜二つとまでは行かないまでも、その男の顔は自分の顔にそっくりだったのだから。きっと今の俺は間抜け面を晒しているだろう。ごくりと唾を飲み、恐る恐る口を開く。

「…俺の、父親か?」
「ふ、は…ッ」

男の身体が震えた。口を手で抑えて笑いを堪えている。この時、俺は自分がかなり馬鹿な発言をしたと自覚した。顔が似ているからと言っても、年齢は自分より少し上ぐらいだろう。計算が合わない案の定、

「流石に、あんたくらいの子供を作るような年齢ではないな。俺がいくつのときに生まれた子供だよ」

なんて言われてしまった。ぐう、と喉の奥が鳴る。最早笑いを堪えることをやめた男がくすくすと笑う。むっと口を尖らせ「じゃあ、俺の兄貴か何かか?」と問えば男は首を横に振った。

「俺に弟は居ないし、そもそも兄弟は居ない。ついでに言うと禪院本家の人間ではなく、遠い遠い分家の人間だ。まぁ元を辿れば禪院だから顔が似たんだろうな」

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