【はじまり】


始まりは、クラスメイトの一言だった。ただのクラスメイトで、殆ど話したこともないようなヤツだった。名前もうろ覚えで、でもなんとなく記憶の片隅にはいたヤツ。

「なぁ影山、バンドやらね?」
「はぁ?無理」

何言ってんだコイツ、と思った。つーか誰かと間違えてねぇか。バンドってあれだろ、なんかジャカジャカやって歌うヤツ。俺が?いや、ないだろ。ぜってー誰かと間違えてる。
しかしそのクラスメイトは「いや、本当にさ、ちょっとでいいからやってみねぇ?沼らせるから」という。沼らせるってなんだ。どこに沼があるんだよ。校内か?

「だってお前なんでも器用にこなしそうだからさぁ、ちょーっくらキーボードひいてくれねぇかなって」
「キーボードってなんだ」
「え、あー…ピアノみたいなやつ?」
「俺にできると思ってんのか?」
「できそうって思ったから声掛けたんだけど」
「無理に決まってんだろ…」
「人間死ぬ気でやればなんでもできる!」
「死ぬ気でやるほどの興味がねぇ」
「たーのーむーよー!他の連中はなんか受験の事考えてますよーって感じで誘いづらいしよぉ、お前暇そうにしてんんじゃん?」
「ひまじゃねぇ!」

推薦が来なかった、だから俺は自力で白鳥沢に合格しなきゃならねぇ。俺だって受験勉強をしなければいけない。いけない…が、全然できていない。勉強するくらいならボールを触っていたい。バレーを、やって、


ボールを上げた先に
だれも いない
そこに だれも、

「―――」
「?おーい、影山?」
「…つーかお前誰だっけ?」
「クラスメイトですけどォ!?なに、覚えてねぇの?」
「しらね。クラスメイトなのは覚えてる」
「知らねぇと来たか…ハァー、なら覚えろ!」

ダッと勢いよく立ち上がる。放課後で数人しか残っていなかった教室にいた人間が、全員そいつに注目する。

「俺の名前は相崎千種!リバーブレーションのバンマスだ!んでもって」

あいざきちぐさ、と名乗ったクラスメイトは俺の手を引っ張る。座ってた俺を立ち上がらせ、そのまま何処かへ連れて行く。は?なんだコイツ。抵抗すればよかったのに、なぜか俺は引かれるがままに足を動かす。「なにあれ、青春の1ページ?」なんて誰かの声が聞こえた。
でもまぁ、確かにこれは青春の1ページとやらなんだろう。恥ずかしいけど、振り返ってみたらそうとしか思えないのだから。

「お前に音楽の楽しさを教えてやる男だ!」

でも間違いなく、一番青春してたのはこいつだと思う。
俺の運命を、ほんの少しだけ変えた男。




今となっては、かけがえのない思い出だ。



[newpage]【1】

「お前なんで入学早々そんな面白いことになってんの?」
「うっせ」
「教頭のズラ吹っ飛ばすのやばすぎだろ」
「…千種、教頭がズラだって気づいてたのか…」
「逆に気づいてないやついんの…?ここにいたか」

ゲラゲラと笑う千種。マジか、みんな教頭がヅラだって気づいてたのか。ちらりと瑞貴に視線を向けると、瑞貴は何故か頭を抱えていた。お、瑞貴はもしかして俺と同じで気づいてなかった感じか?なんて思ってたら「おまえ…おまえなぁ…」と低い声が聞こえた。やべ、怒ってる。目線をズラそうとして、ガシッと頭を掴まれた。

「馬鹿、本当に馬鹿野郎。本当に入学早々何やってんだよこの馬鹿」
「罵倒が馬鹿しかない。語彙力どうした瑞貴。確かに影山馬鹿だけどさぁ」
「オイこのやろう」
「部活のチームメイトと口論になって?先輩の言うことも聞かず好き勝手やった挙げ句教頭先生のカツラをふっ飛ばして?部活禁止?からの部内勝負?は?はぁ??何やってんの影山?」
「ぐっ」

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