霧煙るヘルサレムズ・ロットもすっかり秋の気配に包まれ、窓の外はすっかりハロウィンの様相を呈していた。
 南瓜のランタンや、お菓子の入った籠。魔女の格好をした売り子さんに、浮足立つ子供たち。
 それを見て、こういうイベントにかこつけて現れるであろう人物が容易に想像でき、苦笑が浮かぶ。 きっと彼の事だからニヤついた笑みを引っ提げてやってくるのだろう。
 ───悪戯をする為に。




 そして、ハロウィン当日。

「trick or treat!」
 
 案の条、ザップさんは医務室へと現れた。悪戯じみた笑顔を浮かべて。
 しかし、彼が何かを言う前にハロウィン特有の言葉を口にしたのはこの私。
 先を越されたザップさんは一瞬驚いた顔をした後、つまらなそうに顔をしかめた。

「珍しいな。イベントに興味の無いクレアがそんなこと言うなんて」
「……まぁ、これに関しては興味がないからって無視してたら自分に害が及ぶので」
「あぁ、なるほどな」

 お菓子を用意してなくて、不要な悪戯を仕掛けられるのは避けたい。
 勿論、私も手作りクッキーなる物を焼いて対策はバッチリである。
 
「ちっ、しゃーねぇな。コレやるよ」
「?」

 そう言って差し出されたのは、色とりどりのトゲトゲした物体が数個入った袋が一つ。

「何か見た事ないものですけど……」
「ギルベルトさんから貰ったから良い奴なんじゃねーの? 何かジャパニーズの砂糖菓子で金平糖って言うらしいぜ」
「…………」

 言外に食べても大丈夫かと尋ねればそんな言葉が返ってきた。

「って言うか、ギルベルトさんにまで(たか)ったんですか」
「集ったって言うな。今日はそう言う日だろうがよ」
「そうですけど……」
「それにそいつは、くれって言わなくてもギルベルトさんが用意して皆に配ってたんだ」

 流石ギルベルトさん。
 そのさりげない気配りに尊敬の念を抱く。
 が、その話を聞いてしまっては受け取る訳にはいかない。

「取りあえず、それはザップさんが貰った物なんですから頂けませんよ」
「んだよ、俺が良いっつってんだから良いじゃねぇか」
「そういう訳には」
「めんどくせーな……んじゃ、これなら良いだろ」

 言ってザップさんは袋の中からカラフルな見た目の可愛らしい一粒をつまみ出し、かと思うとやや強引に私の口に入れてくる。 

「お裾分けだ」
「……ザップさんから聞きなれない言葉が」
「あ? 何か文句あっかよ」
「いえ、有難うございます。美味しいです」

 口に広がる上品な甘みに、思わず顔が綻ぶ。
 その味を堪能していると、ザップさんが人の悪い笑みを浮かべている事に気が付いた。
 あ、何か嫌な予感が……。

「ところでクレア」
「はい?」
「trick or treat」

 …………。
 うん、まぁね。そう来るとは思ってたけどね。

「お菓子くれなきゃ悪戯すっぞ?」
「……楽しそうですね」
「そりゃあ咎められる事なく存分に悪さが出来っからな」
「悪さって」

 一体何をするつもりなのやら。

「で、どうすんだよ。」
「あぁ、お菓子でしたね。ちょっと待って下さい」

 問われて私は白衣のポケットを探る……が。

「あれ?」

 もう無かったっけ?
 他のポケットもぽふぽふと叩いてみるが、用意していた筈のクッキーが見当たらない。
 さっき訪れたレオナルド君とソニックに渡したのでどうやら最後だったらしい。

「えーっと」
「何だ。ねーのか?」
「ちょっと待って下さい。部屋にまだあるので……」

 常備していたのが無くなっただけで、まだ用意していたのは残っている。
 それを取りに戻ろとザップさんから視線を外した途端、腕を掴まれた。

「?」

 振り向けば口の端を持ち上げ、意味ありげに笑うザップさんの姿。

「時間切れだ」

 そう言ったかと思うと彼はおもむろに私の顎を掴み、急接近してきて。

「ザップさ……!?」

 気付いた時には口内を舌で掻き回されていた。
 どんな早業だよと文句の言葉すら飲み込まれ……。

「ちょ、いい加減にして下さいっ」

 ようやく引き離す事に成功して顔を上げれば、私から奪った金平糖を歯で押さえながらしてやったりと笑う彼の顔。

「ごちそうさん」

 お菓子を奪われた挙句、悪戯までされた私に、二の句を告げられるはずもなかった。





はい、タイムリミット。
 いたずら決定ー。

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