ライブラの飲み会で。
「クレアは好きな奴いないのか?」
そう切り出したのはSS先輩こと、ザップさんだった。
こんな場所で何聞いてんだアンタ!?
もっと人が居ないところで聞けよ!!
とも思うが当のクレアさんは全然気にしていないのか、隣に座るザップさんを見ながら、はて、と首をかしげ言葉の意味を反芻しているらしかった。
「好きな奴……?」
「おう。おめぇも一応女子だろうがよ。恋話の一つや二つねーの?」
ソファに寄り掛かり、葉巻の煙を上空へと吐き出している先輩は尊大な態度のように見えるが、聞きたくて聞きたくて仕方なかったのだろう。
その証拠に背もたれの上に乗った指が、とんとんとんと忙しなく動いている。その事を指摘する事も出来るが、ザップさんのした質問は僕も大いに気になるから黙っておく。
「女子……と言われると複雑だねぇ」
「いやいやいや! 『一応』の方が気にすべきでしょう!」
「あぁ、そうだね。ひどいぞ、ザップっち」
僕のツッコミにクレアさんは言って、にへら、と笑った。その事から全然怒っていないということが分かる。
もしくはただ単に酔いのせいで正常な判断が出来ていないだけかもしれないが……。
「これでも一応立派なレディなんだぞ」
「一応なのかよ」
クレアさんの言葉にザップさんも呆れた様子だったが、そこは流石と言うか、何と言うか。先ほどの問いへと軌道修正をかける。
「んで、一応立派なレディのクレアさんは好きな奴いねーの?」
「……いない」
『っ!!』
「事もないけど……」
『っ!?』
クレアさんの言葉に喜んだ束の間、すぐに現実を突きつけられた。一喜一憂する俺たちは周りから見たらピエロもいいとこだろう。
しかしここで諦めないのがSS先輩だ。
涙の混じったコーラを飲む俺を気にする事無く、次々と質問を重ねていく。
「ここの奴か?」
「……まぁ」
「いい男なのか?」
「……そりゃあ」
「ヒントっ! ヒントくれよ!」
「えー……?」
先程までの余裕はどこへやら。
犯人探し……じゃなくて、クレアさんの想い人探しに躍起になるザップさん。それに対し、クレアさん自身はあまり乗り気じゃない。
それでもザップさんのしつこさに諦めたのか、酔いの所為か、ポツリと言葉を零した。
「人当たりが良い人」
その途端、ザップさんがその場に崩れ落ちる。
どうやら人当たりが良くないとの自覚はあったらしい。
「他には?」
「えーと……」
言い出しっぺが再起不能に陥ったので、これで質問は終わり。
そう思われたのだが、とんだ伏兵が居たよ!
それもとんでもない伏兵が!
クレアさんも声の主に対し、困ったように見つめている。
「教えてくれないだろうか?」
尋ねたのは今まで俺の隣で置物と化していたクラウスさんだった。
ザップさんが役に立たないと見て取ると、自ら斬り込んで行くスタイルは流石リーダーだ。
クレアさんはやや視線を彷徨わせてはいたが、先程と同じようにポツリと呟く。
「スマートな人」
それは体系的な意味で!? それとも行動的な意味で!?
どちらにせよ当てはまる事のない俺には関係無いけどねっ!
ちくしょーっ!
「他には?」
「笑顔が似合う人」
その言葉に、クラウスさんの体がピクリと反応する。
ちらり、と横を窺えば、クラウスさんは何かに耐えるようにふるふると震えていた。
……これ以上は皆の精神をえぐられるだけだ。
そう判断した俺はこの話を切り上げようと口を開き───そこへ落ち着いた高い声が割り込んできた。
「でもそれだけじゃ決定打に欠けるわよねぇ」
「K・Kさんっ!?」
「残念だったわねぇ、レオっちぃ」
酒瓶片手に現れたK・Kさんは言って意地悪く笑う。
っていうか、いつから聞いてたんだこの人は。
「い、良いんすよ。初めから分かってましたし……」
「なぁにイジけてんのよ。『俺に振り向かせて見せる!』くらいの気概見せなさいよ」
「うぐ……っ」
「ま、そんな事よりクレアっち〜。もうちょっと具体的なヒントは無いの? 身体的特徴とか」
こういう話が好きなのか、K・Kさんは楽しそうに尋ねる。聞かれた方のクレアさんは「特徴?」と呟きながら視線を上げ、ぴたりと動きを止めると、はっきりとそれを口にした。
「傷」
『………………』
その言葉にスティーブンさんへと皆の視線が集まる。他の女性と楽しそうに会話をしていた彼は、視線に気づいた風を装いながら早々に話を切り上げ、こちらへと近づいてきた。
「ん? どうしたんだい?」
と白々しい言葉を引っ提げて。
なぁにが、どうしたんだい? だ。
こちとらクレアさんが呟く度に耳がピクピク動くのを見てんだよ!
しかし。言いたい事は山ほどあれど、そんな事を言おうもんなら、一瞬にして氷像ができあがるのは目に見えている。
僕は自身の保身の為に口をつぐむ事にした。
すると、K・Kさんが珍しく上機嫌でスティーブンさんへと事の成り行きを説明しだす。
「今ねぇ、クレアっちの好きな人の特徴を聞いてたのよ」
「ふーん? そいつは興味深いね」
「クレアっちによると、その人は人当たりが良くて、スマートで、笑顔が似合って、『傷』があるんですって」
「へぇ、そうなのか」
言ってスティーブンさんはその傷のある顔に笑みを乗せた。
更には片手にシャンパンを持ち、もう片方の手はスラックスのポケットへ入れながらクレアさんの居るソファの肘置きに腰を掛ける。
その姿はスマート以外の何物でもなく、僕には到底マネの出来る物じゃない。
「なら、僕にもチャンスはあるのかな?」
「えっ……と」
流石伊達男。がっついたりせず、余裕を見せつけている。
それを受けクレアさんは困ったように視線を彷徨わせ、そこで何故か急に笑顔に変わった。それもキラキラとした、嬉しくてたまらないという、まるで恋する乙女のような───。
「ギルベルトさんっ!」
って、え?
「はい、なんでしょうか?」
「お手伝いしますっ」
「ですが……」
「酔い覚ましに手伝わせて下さい」
いつの間に移動したのだろうか?
にこりと笑って空になったグラスの乗ったトレーを受け取るクレアさんはとても楽しそうだ。
そこに、先程まで嬉々とした様子で語っていたK・Kさんがソファの背もたれに頬杖をつきながら、とどめの一撃を放ってくれた。
「ギルベルトさんが好きだなんて、クレアっちは見る目があるわよねー」
───と。
「え?」
「は?」
「え?」
『えええええええええぇぇぇぇっ!?』
部屋に絶叫が走った。
いや、確かにギルベルトさんは格好良いと思う。それはクラウスさんやスティーブンさん、さらにはザップさんとも違う格好良さがある。
意中の人に好きな人がいたからと言って、ここにいる人達のように崩れ落ちる姿は想像できない格好良さだ。
「そうか、ギルベルトさん……ギルベルトさんかぁ……」
「そ、そんな……あそこまで……あそこまで条件が揃っていて……」
「あっはっはっはっはっ!」
落ち込むスティーブンさんを指さして笑うK・Kさんを見て思う。
確信犯だったのだろうと。
───そして。
その日の飲み会は、何とも言えない空気の中、終わりを迎えた。
ハイなテンション、暴露大会
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