最近、何だか調子が良い。
外で絡まれる事も無いし、事件も無い。理不尽な先輩からの嫌がらせも無いし、至って平和で元気である。
───なのに。だと言うのに。
最近、何だか調子が悪い。
落ち着かないし、モヤモヤするし、そわそわする。話が耳に入らなくてクラウスさんには心配され、スティーブンさんには呆れられ、K・Kさんには何故かニヤニヤされた。
一体何なんだ。
全然分からなくて、K・Kさんに問い返せば、「取りあえず診てもらってきたら?」と相変わらずのニヤニヤ顔をやめもせずに言ってきた。
「診てもらうって……」
「勿論クレアっちによ」
そう言われた途端、どくんと心臓が跳ねた。
その意味を理解できない程、子供でもなければ初心でもない。
かと言って慣れている訳では決してないけど。
「う、あ……いや、そ、れは……」
「若いって良いわねぇ〜」
「そそそそんなんじゃないっすよっ!?」
「はいはい、取りあえず後でどうなったか教えて頂戴」
「だ、だからっ」
違いますって!
そう尚も否定をしていると、「良いから良いから♪」と襟首を掴まれ引きずられる。
「って、K・Kさんっ!?」
「それじゃあごゆっくり〜」
どこかの扉を開け、僕を放り投げながら楽し気な言葉も投げられた。
「ちょ!? って、いったあぁぁぁぁ!!」
いきなりな事で、ろくに受け身も取れず強かに顎やら膝やらを打ち付ける。
そんな僕に降ってきたのは聞き覚えのある声で。
「……レオナルド君?」
「えっ!? あっ、クレアさんっ!?」
床に這いつくばる格好になった僕に、不思議そうなクレアさんの視線が降り注ぐ。
どうやらK・Kさん、僕を医務室に放り込んだらしい。
「どうしたの急に……取りあえず立てる?」
驚きからかきょとんとしつつも手を差し出してくれる彼女に、あはは、と誤魔化し笑いをしながらその手に触れる。
それだけで、どうしようもなく鼓動が速くなってしまうのだから重傷だ。
「熱でもあるの?」
「え?」
言うが早いか、クレアさんが僕の額に手を当てた。
「うーん? 顔が赤いから熱があるのかと思ったんだけど……」
「あっ、そのっ、何ていうか、熱くて!」
「そう? 室温はそんなに高くないはずだけど」
「いや、あの、ちょっと運動をしてましてっ!」
しどろもどろになりつつ、テキトーな言い訳を絞り出す。それに対して「そう?」と小首を傾げるクレアさんに向け、更に誤魔化し笑いを上乗せしていく。
やばい、口の端が攣りそうだ。
「じゃあ、どこか怪我したの?」
「いえ、最近はかすり傷一つしてないっす」
「……そっか」
僕の言葉に嬉しそうに笑ってくれる彼女だったが、途端に困ったような顔になった。それが気になって「どうしたんすか?」と尋ねれば、クレアさんは「うーん?」と唸り声をあげる。
はて? 何か言い辛いことなのだろうかと考え、思い当たったのは彼女が仕事中だという事だ。
「すみません、仕事の邪魔しちゃいましたよね」
「あー、いや。それは全然構わないんだけどね」
今まで医務室に来た際にはどっかこっか怪我していた訳だけど、本日は全くの無傷。
クレアさんの手を煩わせることもないけど、じゃあ何で来たんだと言われればK・Kさんに放り込まれたからで。
そこまで思考し、ようやく彼女の態度に納得がいった。
怪我もしてない、病気でもない僕がここに訪れた理由を探しあぐねていたのだろう。
かと言ってK・Kさんに連れてこられた理由を説明する勇気はこれっぽっちもない。
ない……が、このままで居るのも居たたまれない。
「えーと、あの……」
「あぁ、ごめんごめん。君が来てくれた……というか運ばれてきた理由が分からなかったから」
ですよね。
「ちなみにレオナルド君は今時間があるのかな?」
「あ、はい」
突然の確認に、深く考えもせず頷き返す。
すると彼女に「じゃあ、一緒にお茶しよか?」とにっこりと笑いかけられた。
丁度休憩しようと思ってたんだと水を向けられ、その有り難い申し出を断る理由は断じて無い。
僕は自分でも驚くくらいの元気の良い返事をし、笑顔を返したのだった。
これって禁断症状?
それからと言うもの、怪我をしなくても医務室へと訪れることになった僕の精神はすこぶる良好になったというのは、また別の話───
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