保護者じゃなく恋人です*



「あーあ……」


花壇の中に無遠慮に入ってきているサッカーボールに落胆した。せっかく咲いた綺麗な花の茎が折れてしまっている。俺は花を育ててはいるけれど、花自体については実はあまり詳しくない。


「これ元気になんのかな…」


とりあえず水をあげておこうといつものように水をあげて首から下げているカメラで花の写真を撮った。俺は写真部であり、部員の少ない園芸部にも所属している。


「いっ!」


突然、頭に思いきり何かが当たってまた花壇の中に落ちそうになったのを慌てて腕を伸ばしてボールを止めた。そのボールはどうやらバレーボールみたいで俺の背後にある体育館を睨む。


「木兎!ドア閉めて部活やれって何回言ったら覚えるんだよ、ボケッ!」
「名前!ごめんってー!」


体育館から出てきた木兎が手を合わせて俺に謝ってくる。ため息を吐きながらバレーボールを返す。


「なぁなぁ、俺の事見て帰んない?駄目?」
「俺、今は部活中なんだけど。この後は新聞部の記事の為に野球部回らないといけないから」


本当の事をそのまま伝えるとむすっ!とした表情になって拗ねている事が一瞬で分かってしまった。これは他の部員達に悪い事をしてしまったかもしれない。赤葦も面倒くさそうな表情でこっちを見ている。


「木兎…こっちおいで」
「何だよ」


どこか尖ったような言い方をしてくる木兎をあまり人が通らない場所に移動させて、キスをした。


「んっ……!」


驚いて最初は目を大きく開けていたけれど、俺がキスを続けているとそれを堪能するように目を閉じて俺の着ている制服を掴んだ。


「名前……」


舌を絡ませたキスを終わらせると頬を赤くさせた木兎が俺を見つめる。何を求めているかは分かっているけれど、それに気づかない振りをして木兎の額に自分の額をつける。


「光太郎、良い子に練習してたら今日は一緒に帰ろうか」
「本当か!?」


「うん、本当だから。赤葦や木葉を困らせたら駄目だよ」
「分かった!よっしゃー!元気出た!名前、行ってくる!」


「ん、行ってらっしゃい」


にこやかに見送るって俺は花壇の元に帰る。少し写真を撮ってから野球部に行き、新聞部と共に取材をしながら部活中の彼らの写真を撮った。


暗室で現像をして時間を忘れて、夢中になる。最後の一枚の現像をもう少しで終えるという時になってドアが乱暴に叩かれる。


「苗字、木兎が来てるぞ」
「あー、忘れてた」


作業に夢中になりすぎて木兎を迎えに行くのをすっかり忘れていた。きっと拗ねているか泣きそうになっているかのどちらかだろう。


「名前ー!」
「あー、ごめんごめん」


俺が暗室から出てくるとすぐに木兎が抱きついてきて、同じクラスの部員も呆れたようにこっちを見ている。


「戸締まりは俺がやっとくから、帰って良いぞ。ありがとな」
「分かった、じゃあよろしくな」


部員にそれを伝えて暗室の中を片付ける。ずっと俺の後ろを着いて来る木兎を少し可笑しく思いながらも何も言わずに戸締まりをする。


「名前ー」
「んー?」


「名前ー。なぁなぁ!」
「だから何?」


「ここ俺と名前しかいねぇからさ!」


キラキラした笑顔を俺に向けてくる木兎にため息を漏らしそうになるのを堪えて、自分の鞄を持って教室を出る。


「なぁなぁ!名前!」
「何して欲しいの?光太郎」


教室の鍵を締めて光太郎を見る。さっきまで元気に俺にまとわりついていた光太郎が俺から体を離して、声が小さくなる。


「あー…えっと……」
「いつもの勢いはどうしたんだよ?」


「っ……なぁ、今日…うち親いないから」
「だから?」


目を泳がせて俺が折れてくれるのを待っているような沈黙。


「光太郎?」
「っ!あー!もうっ!何で今日はそんな意地悪なんだよ!名前!」


雰囲気をぶち壊すように子どもみたいに怒り出した光太郎にやっぱり、光太郎にはこんな駆け引きのような物をするのはまだ早かったみたいだ。


「ほら、じゃあ帰ろ」
「おうっ!」


いつもの笑顔に戻った光太郎は俺の手を握って、先を歩いていく。


「あ、ちゃんと赤葦に付き合ってくれてありがとうって言った?」
「言った!」


「ん、良し」