素直な君



「名前ちゃーん!」
「ほら旦那が呼んでるよ」


冷やかすように前の席の女子が言ってきて、それを無視するように伏せる。毎日毎日良く飽きないよな。


「ほら及川くんが寂しそうな顔してるよ?」
「じゃあお前が行けよ」


「好みじゃないから嫌」
「ひっで」


思わず笑いながら顔を上げると確かに微妙な顔をした及川が俺を見て、手招きしている。


「…………何だよ」
「今日は部活来れそう?」


「あー、多分。大丈夫だと思う」
「良かった!じゃあ今日一緒に帰ろ」


「……明日、体育館の点検で休みじゃねぇか。絶対に嫌だ」
「何もしないってば!」


必死に訴えてくる及川に俺が了承しそうになった時、横から岩泉が声を掛けてきた。


「お前、名前の変な写真送ってくるのやめろ」
「ちょ、岩ちゃん!」


変な写真?及川を睨み付けながら岩泉に送られた写真を見せてもらったら、こいつがしつこく言ってくるからしょうがなくしてやったコスプレの写真だった。


「岩泉、今日泊まりに行っても良いか?」
「じゃあ前に買ったゲームの続きするか?」


「マジで!するする!」
「ちょっと名前!」


俺の服を掴んで名前を呼んでくる及川を無視して、岩泉と話を続ける。その間も何度も服を引っ張られて鬱陶しい。


「お前さ悪いことしたって自覚あんの?」
「……ある」


「じゃあ何で送ったんだよ?」
「名前が可愛かったから岩ちゃんにも見てもらおうかと思って」


ため息しか出てこない。岩泉が苦笑いしながら頭を掻いている。


「岩泉、それ削除しとけよ」
「嫌だ」


「俺のそんな格好見ても何も楽しくないだろ。及川、授業終わったら迎えにこいよ」
「ん、りょーかい」


教室の自分の席に戻って前の女子と会話を続ける。今日は数学の小テストがあるらしい。すっかり忘れてた…
まぁ勉強してもすぐに抜けていくからあまり意味が無いけど。


「ねぇ、岩ちゃん。名前って可愛いでしょ。俺のだよ」
「俺はお前みたいな汚い感情持ってねぇよボゲ。ただ可愛がってるだけだ」


「何だかんだ言って名前も及川さんのこと好きだからねぇ」


得意気な顔をして話す及川の顔にとりあえずビンタをした岩泉は、うるさく喚いている及川を放って自分の教室に帰った。




「名前ー部活行こ」
「おー」


放課後に及川に呼ばれてバッグを片手に教室を出る。


「ねぇ、最近良く話してる前の席の子ってどんな子?」
「趣味が悪い」


「え?」


隣を歩く及川が再度、聞き返してきて同じ言葉を繰り返す。


「烏野の眼鏡が格好良いんだってさ。よそのバレー部よりうちのバレー部見ろよって感じだよな。花巻とか岩泉とか結構、イケメンだと思うんだけどな」
「ねぇ、待って。そこで何で俺の名前が出ないの?」


本当に疑問に思っているようなトーンで言ってくるから吹き出して、しばらく笑ってしまった。


「そんなに女子に見られたいのかよ?及川は俺の恋人じゃねぇの?」
「………………そ、そうですね」


顔を赤くした及川が俯いたのが分かって本当に可愛いなぁと思う。何を言われても気にしなさそうで女子の扱いも馴れたような顔をしておきながら、ストレートにこんな言葉を言うと恥ずかしそうに視線を逸らす。


「ほんとやだ名前ちゃん。絶対、今日泣かす」
「はぁ?じゃんけんだろ。俺が勝つ可能性だってあるし」


「5連敗の人が何言ってんの」
「うるせぇ、今日は勝てるから」


部室に入り服を着替えてから体育館に向かう。コーチの指示を聞きながら練習をして少し休憩をとった。






「お疲れー」
「お疲れさまでした」


各々挨拶を交わして部室に帰っていく中、及川と岩泉の二人はいつものように残って練習をしている。俺はそんな二人を見ながら体育館の隅で水分を補給していた。


「元気だよなー、ほんと」


体育座りをして二人を眺めながら先に着替えてこようかなと思って、立ち上がる。


「先、着替えてるからなぁ」
「うん、後ちょっとしたら止める」


練習着を脱いでロッカーに入れている鞄に突っ込んで、シャツを出した所で二人がやって着た。


「お疲れ」
「おお、名前もお疲れ」


「及川、着替えるの遅いんだからさっさと着替えろよ」
「分かってるよー」


俺の真反対にあるロッカーが及川で俺の隣の隣が岩泉だ。ちなみに隣は松川
俺が服を着替え終わった時、岩泉もほとんど着替え終わっていて先に部室を出て行った。


「及川、まだ?」
「ちょっと待って」


振り返ると服は既に着替え終わっていて、髪を真剣にいじっている。そんな及川の頭を背伸びをして思いきり両手で撫で回してやった。


「ちょっと!名前!」
「お前は顔が良いんだからどんな頭してても似合うんだから、そのままにしとけ!」


「そういう事言うの本当にやめて」
「及川くん、超かっこいいー」


「やめて!」
「これだけ褒めたから今日、及川が下な」


「それとこれとは違うくない?」


部室を出ながらそんな言葉を交わして、人がいないのを確認してから手を繋いで軽く唇が触れる程度のキスをした。