三十路と学生



「本当に私の事、好きだった?」


そんな言葉を泣きながら言われて、初めての彼女にフラれた。二番目に出来た子も三番目も同じようにフラれた。俺は言われている意味が分からなくて、一番に彼女を優先していたと思っていたのにそれでは違うらしくて…女が良く分からなくなった。


「何でそれを僕に相談してくるの?」
「蛍まで俺に冷たくするのか!?」


ボーッとする頭で何とか返事を返して、面倒くさそうな顔をしている部活終わりの蛍の顔を見る。俺だって、蛍みたいに顔が整ってたらフラれたりしなかったんだ…


「顔が好みじゃなかったってハッキリ言えよ!ボケッ!」
「僕、帰るよ。疲れてるし」


「何でだよ…もうちょっと、なぁ…蛍って…」


蛍が着ている烏野のジャージを引っ張って引き留める。さっきからずっと面倒くさそうな顔をしている蛍に段々と申し訳なくなってくる。そういえば何でいつも明光に電話掛けてフラれた愚痴を溢したら、蛍がやって来るんだろうか。


「よし、おじさん…俺帰るわぁ!」
「はい、ありがとうね」


料金を支払って蛍と共に店を出る。少しフラついた足を蛍が支えてくれて、お礼を言う。本当にイケメンだなぁ…女の子には困りそうにないよなぁ。それなのに告白されても断るタイプだ。女の子を選ぶ余裕があるようなタイプ
俺も年齢の割りにはあまり困った事は無いけれど。


「名前さん!ちょっと…」
「んー…けい…何でだよぉ…」


そこから記憶が無くて、目を覚ましたら隣で蛍が寝ていた。何かやらかした訳ではないけれど昨日の出来事を思い出して、申し訳ないと思う。毎回、思うだけ思って謝罪もするけど同じ事を繰り返す。


「ん…」
「蛍、おはよう」


「………昨日、大変だったんだからね」
「ごめん…ほんとにごめん。今度、ケーキでも練習でも何でも付き合うから」


満足したように微笑んだ蛍がまだ眠そうな目を擦る。


「蛍、今日は部活休みなのか?」
「体育館の点検だから」


また布団に潜り込もうとする蛍を起こして、朝食を準備する。コーヒーと軽いものを食べて出掛ける準備をする。時々、蛍も泊まる事があるせいか蛍の着替えにも特に困らない。


「名前さん、二日酔いとかになってないの?」
「何、心配してくれてるのか?」


笑って聞いてみると視線を逸らされてぶっきらぼうな返事だけが返ってきた。まぁ蛍はいつもこんなだけれど。話していてつまらなくはないし、俺も甘いものが好きだから一緒に行動する事も増えた。


「蛍が俺の彼女だったら楽しかったかもなぁ」
「………何それ」


またぶっきらぼうな返事…と思って振り返ると蛍の耳が真っ赤に染まっていた。まさかそんな反応が返ってくるなんて思わなくて、きょとんとしてしまう。恥ずかしそうに視線を逸らした蛍は小さな声で返してきた。


「僕は別になっても良いけど」
「えっ!?」


「何、僕じゃ不満な訳?」
「いや。そんな事はないけど…いや、その…俺…おっさんだし」


冗談混じりに言った言葉をまさかまともに受け取ってくるとは思ってもいなくて、動揺する。それでも目の前の蛍からの言葉は嬉しいと思っている自分がいる。


俺が自分の歳の事を口にすると、蛍はあからさまに眉間に皺を寄せて俺に近づいて見下ろしてくる。


「そんなの今更、変えようもないんだからしょうがないでしょ」
「……そうだな」


「名前さん、僕…行きたいケーキ屋があるんだけど」
「うん、行こうか」