混乱中な恋愛
龍や夕に良く言われるのはお前は考えすぎだということ。俺は気にした事は無かったけれど、一人になってボーっと色々と考えている事があるなぁと言われてから思った。
明日からまた東京合宿が始まる事を思い出して、少し憂鬱な気分になる。別に部活の練習をするのが嫌な訳じゃ無い。研磨とか猛虎と話をしたりするのは楽しいし、これからの部活の参考になる事ばかりでとても勉強になる。だけど…同じ二年の赤葦とだけは未だに他の人と比べて上手く話せないでいた。
初めて会った時に研磨や木兎さんと初めて会った時とは違う感覚を感じて、妙に緊張してしまった。そんな俺に気付いたのか赤葦はあまり俺には話しかけて来なくなって、それはそれで寂しくなっている俺がいて…俺自身が自分の心理状態を良く理解出来ないでいた。
「上手く話せたら良いな」
「そうですね…」
駅からの移動の最中にスガさんに声を掛けられて、返事を返す。何故か俺の赤葦へ感じる妙な感覚を一番最初に察して理解してくれたのがスガさんだった。その感覚の意味や名前については自分で考えないと駄目と答えを教えてはくれなかったけど、相談出来る人が出来たからとても楽になった。
「久しぶり」
「久しぶり、赤葦」
体育館に着くとすぐに声を掛けてくれたのが赤葦だった。少し意外に思って隣にいるスガさんを見ようとしたら既に隣からはいなくなっていた。最初の挨拶は何とか普通に返す事が出来た。そんな事に安心して、赤葦に不快な思いをさせないようにと何を話そうかと考え始めた所で、赤葦が話し始める。
「今日は怯えないんだね」
「えっ!?」
「何か俺に怯えてるみたいだったから…初めての合宿の時」
「そんな事は無い…と思う」
前回の合宿の事を思い出そうとするけど、すぐには思い出せない。そんなに酷い態度をしてしまったんだろうか…もしかしてそれで怒って今日は俺を見つけたらすぐに話しかけてきた…とか。普通に考えて赤葦が俺に一番最初に話しかけてくる理由が思いつかないし、話しかけるなら仲良くしていた月島とか日向とかだろう。
「じゃあただの人見知り?」
「あ、あぁー…そうかな。普段はあんまりそういうの無いんだけど…」
つい余計な事を口走った。人見知りって事にしておけば良かったのに。体育館に入ってから俺は一歩も動けずに赤葦と話をしている。他のメンバーは各々でストレッチをしたりしている。このままだと俺は赤葦とストレッチをしないといけなくなってしまう…烏野の方に逃げようと、赤葦の方を見て適当に離れようとしたら手招きされるようにして体育館の隅の方に誘われる。
「皆、適当に始めてるみたいだし俺達もストレッチしよっか」
「うん…」
床に座って赤葦に背中を押される。柔軟は結構、好きで家でも良くやっているから体は柔らかい。
そういえばもっと赤葦と話をするのに緊張してしまうかと思っていたけど、思っていたよりも普通に会話が出来ている事に気付く。やっぱりスガさんに色々と話を聞いてもらったおかげかな。
「柔らかいね、体」
「うん、家でも良くやってるから」
「へぇ…俺、結構柔軟やってるんだけど体がずっと硬いんだよね」
「やり方が悪いとか?」
「今度、教えて」
「良いよ。また今度の合宿の時にでも」
いつも通りを装いながら、ストレッチをする。今度は俺が赤葦の背中を押す。自分で言っていた通り確かに、俺よりかは体は柔らかくなかった。ふと視線を上げるとスガさんが大地さんと一緒にストレッチをしていて目が合った。口パクで頑張れなんて言われて、何も言い返せずに視線を下に戻す。
頑張れって…何を頑張れば良いんだろうか。普通に赤葦とは会話が出来ているから、これ以上何も頑張る事は無いんだけど。
「あのさ、昼休憩の時に連絡先教えてもらっても良い?」
「良いよ」
ストレッチを終わらせて、体を軽く伸ばしていたらそんな言葉を掛けられて何も考えずに返事を返してしまった。赤葦と連絡先を交換?誰が…俺が?
木兎さんの方へ歩いていく赤葦の背中を見送りながらその場に座り込んだ。何だろう。物凄く、嬉しい。どれくらい嬉しいかって言われたら、龍が可愛いって言ってた女子に連絡先を聞かれた時くらいに嬉しい。後で龍にめちゃくちゃ睨まれたけど。
「おーい、大丈夫か?」
「スガさん!」
頭上から声が掛かって、立ち上がる。そこにいたのはスガさんで俺はスガさんの肩を掴んで、さっき起きた出来事を話した。
「良かったな。赤葦くんももっと苗字と話をしたいって思ってくれてるんじゃないか?」
「そうですかね」
「嫌いな奴の連絡先わざわざ聞いたりしないだろ?」
「そうですよね。そっかなら、嫌われてるわけじゃなかったんだ」
「ていうかあっちは嫌っているっていうよりかは…どっちかっていうと逆な気がするけどね」
「え?逆ですか?」
逆って事は好きって事か?いやいや、そんな訳無いだろ。初めての東京合宿の時にあんな態度を取ってしまったのに…。複雑そうな顔をしていた事に気付いたのかスガさんが更に話を進める。
「苗字はさ…」
「苗字!」
「え、赤葦…何?」
さっきまで木兎さんの所にいた赤葦が少し遠くから俺を呼ぶ。不思議に思いながらもスガさんに一言断ってから赤葦の方へと向かった。
「心配しなくても取らないって」
そんな言葉を吐き出した菅原は、自分の想いに全く気付いていない後輩の鈍感さと頭の悪さに思わず溜息を吐き出す。あれだけ分かりやすい程に赤葦にアプローチされておきながら、どうして分からないんだろうか。まぁ、男同士だからそういう考えに至る方が少ないのかもしれないけれど。
「にしても…段々、赤葦君が可哀そうになってきた…」
もっと赤葦の事を余裕のある大人な考え方をしていると思っていた菅原にとって、あんなにも名前が関わると感情を露にする姿を見てやっぱり何かアドバイスをもう少し名前にするべきだったかなと思った。
「何か用事?」
「あ、苗字!聞いてくれよ。赤葦、めっちゃ怖いんだからな!」
「え?」
「ちょっと木兎さん余計な事言わないでください」
「だってちょっと苗字の話出したくらいでめちゃくちゃ機嫌悪くなるんだぞ!」
「…そうなのか?」
「木兎さんがうるさすぎるだけですよ」
いつもと変わらない表情で木兎さんに向けて言う赤葦。俺の背中にへばりつくようにして抱き着いている木兎さんをそのままに赤葦を見る。特に変わったようには見えない表情に木兎さんの勘違いじゃないのかと首を傾げる。
「木兎さんの気のせいじゃないですか?」
「気のせいじゃねぇよ!」
「でも…俺には特に変わったようには見えませんけど…」
「そりゃ、赤葦は苗字の事がす…」
「木兎―!飯だってさー!」
「飯!?行く!」
話の途中で木兎さんは俺の背中から離れて、体育館を出ていく。本当に嵐みたいな人だなと思いながら木兎さんの背中を見送る。
「名前―!先、行ってるぞ」
「すぐ行く!」
龍に呼ばれて俺も体育館を出ようとしたら、赤葦に腕を掴まれた。
「赤葦?何?」
「俺、苗字の事が好きだから」
「好き?」
赤葦の言葉を繰り返すと、無言で頷いた赤葦は俺の方に顔を近付けてくる。何をするつもりなんだろうと思わず手で赤葦の口を塞ぐ。不満そうに眉を寄せた赤葦が俺の手を掴む。
「好き」
「…ちょっと待って。混乱してる」
「キスさせて」
「だからちょっと待ってって!」
「無理」
「赤葦って意外と強引…んっ…」
結局、俺の言葉を無視してキスをしてきた赤葦のその行為は嫌では無くて唇が離れてからは少し寂しく感じるものになってしまっていて今度は俺が、キスをした。
「赤葦の事…好きなのかも」
「かもって…」
楽しそうに笑った赤葦は俺の手を引いて、体育館を出る。
「お昼食べに行こう」
「うん…」
烏野バレー部2年考えすぎるて自己完結してしまう男主と赤葦