及川と及川弟と岩泉
「俺はあんたらの欲を満たす為の道具じゃねぇから」
両親が叫ぶように俺の名前を呼んだのと兄貴である徹が間抜けな顔で俺を見つめていた。テーブルに置かれた青葉城西のパンフレット
当たり前のように青葉城西に行った時の俺の話を始めた両親と徹にそう叫んで、携帯だけを持って家を出た。
行き先なんて俺には無いけれど、何故かやっていけるような気がしていて不思議な気持ちになる。
でも結局、行き着いたのは兄貴と一といつも一緒に行っていた寂れた公園だった。
ブランコなんて座って触ってみたらすぐに手が鉄臭くなって
滑り台は誰も滑りたがらない位に汚く、小さな穴が空いていた。
「名前」
名前を呼ばれたけど無視して、ブランコを漕いでいたら更にデカイ声で呼ばれた。視線をそちらに向けるとそこには息を切らした一がいた。
「…………結局、来てくれたのは一が最初かよ」
「帰るぞ」
「やだ」
「おじさんもおばさんも及川も心配してる」
「してないから一が一番最初に俺を見つけたんだろ」
「俺はお前の事を一番良く知ってるからな」
断言するような物言いに思わず笑ってしまう。真っ直ぐに俺を見つめる一の視線が強くて、俺も目を逸らせないでいた。
一の大きな手が俺の頬に触れて、俺は訳も分からないままその手に自分の頬を擦り寄せた。兄貴に似たくなくて髪を何度も脱色して、すっかり元の色がわからなくなった髪を一が撫でる。
「はじめ」
「っ…あんま及川を困らせんな。ほら、行くぞ」
手を思いきり引かれて、ブランコから離れる。そのまま公園を出て家までの道を連れて行かれた。
「及川がいるって考えんな。俺がいるから青葉城西に来い」
「………一がいるの一年だけじゃん」
「その一年の間に友達くらい出来るだろ」
「出来るけど…一は兄貴の所に行くんだろ?」
「お前が傍にいろって言うならいてやる」
「じゃあいてよ、一」
俺の腕を引っ張っていた一が足を止める。俺は今、どんな表情で一を見ているんだろう。そんな事すら分からなくなっているような感覚になって、何年かぶりに目に涙が溜まるのを感じた。
「いてよ、一。ずっと」
「分かった」
力強く俺を引っ張っていた掌が今度は俺の涙を優しく拭ってくれる。
「名前!」
突然、腕を掴まれて振り返るとそこには兄貴がいた。どこを探し回っていたのか汗だけはしっかりかいている。
「帰ろ?」
「うん…」
「ありがとね、岩ちゃん」
「別に。名前…ちゃんと考えて答え出せよ」
一の言葉を頷いて返して、兄貴に手を引かれるがままに家に帰った。
「俺、青葉城西行くから」
満足そうに笑った両親の顔が憎たらしくてしょうがなかったけれど、一と一緒にいれるなら良いやなんて考えた。
「バレー部に入ってしっかり徹をサポートするのよ」
「うん…」
両親の視界にはいつも兄貴しか入ってなかった。