自分の価値を見出だせない西谷弟と縁下



放課後、部活に所属していない俺は適当に選んだおばさんと時間を過ごしていた。ご飯は奢ってくれるし、どんな抱き方をしても受け入れてくれる。


「名前くん」


ねっとりとした声で名前を呼ばれて適当に笑って返事を返す。腰に回されそうになった腕を適当に流しながらホテルのある方向へと向かおうとしたら、デカい声で名前を呼ばれた。


「名前!」


面倒くさい人に見つかってしまった。俺の兄貴の友達の縁下力という男だ。いつも兄貴である夕の勉強の面倒ばかり見ている。


「力さん、どうかしましたか?」
「どうって…すいません、こいつは俺と用事があるので」


腕を引かれて足早におばさんと離れていく。今日は特に何も言ってこないおばさんだったみたいだ。


「力さん離してください。手痛いので」


淡々とした口調で告げるといつも力さんに見つかったら連れて行かれる公園のベンチに座らされた。公園の中にはクレープの店が今日は入っていたみたいだ。みんな嬉しそうにクレープを食べている。


「クレープ、いる?」
「いらない」


すぐに返事を返すと何故か力さんは俺から離れてクレープ屋の方に向かって歩いていく。あの人は本当に人が良いよなと思う。なのに何で俺の事なんて構ってくるんだろうか。俺は何も返せる物なんて無いのに。


「はい」
「ありがとうございます。いくらでしたか?」


「良いよ、それくらい」
「すみません……」


俺の隣に座った力さんはクレープを食べている俺の横顔をずっと見つめている。何かついているんだろうか?俺の顔に


「あの…食べづらいです」
「あ、ごめん…西谷といつ見ても似てないなって思って」


「そうですね、全く似てないです。俺……スポーツは全然だし、あんな……」
「名前くんは頭が良いよね。それにモテるし、髪もふわふわで綺麗」


俺の髪の毛に触れた力さんはいつもの笑顔のまま、俺の頭を撫でた。うるさくなる心臓を気づかない振りをしてクレープを食べる事に集中する。だけど、緊張していたからなのか味は良く分からなくなってしまった。


「力さんの方が俺は綺麗だと思います。俺に綺麗なんて勿体ないですよ」
「へ……」


そんな言葉を言われるとは思ってもいなかったのか力さんの手が止まって、変な声を出した。俺が力さんの顔を見ると見たこともない位に真っ赤に染まっている。その反応を見られた事が楽しくて、力さんの頬に手を伸ばす。


「名前くん?」
「力さん…キス…しても良いですか?」


そのままの流れで近づいて行くと力さんのクレープに邪魔をされた。柔らかなクレープの感触が俺の唇に当たって
俺は眉を寄せる。


「俺のクレープも美味しいだろ?」
「…………そうですね、美味しいです」


唇についた俺のクレープには入っていなかった味のクリームを舐めて、自分のクレープを食べ終わった。


「力さんは何で俺を構うんですか?俺じゃなく夕だけを構っていれば良いでしょ?」
「俺は名前くんともっと話をしたいんだ。それだけじゃ駄目かな?」


「俺と話なんてしても楽しくないですよ。バレーの話も出来ないし」
「たまにはバレー以外の事も話したいんだよ」


「俺じゃ力さんが満足出来るような答えは出せません」
「良いよ、それでも」


全く引く様子を見せない力さんに言葉に詰まる。どうしたらこの人は俺なんて見なくなるんだろう。たくさんの女性を抱いて金をもらって、そんな事ばかりして他人に自慢出来る個性や趣味なんて持ち合わせていない俺は、誰にも価値なんて見出だしてもらえないだろう。


「名前くん?」
「もう俺に構わないでください。もうすぐ試合なんですよね?頑張ってくださいね」


「あっ、ちょっと!」


名前くん、名前くんと呼ばれる度に心臓がうるさく鳴る。この現象に名前をつける事は出来るけれど、それはやってはいけない事だ。それも夕の大切なチームメイトにそんな事出来ない。


さっきのキスだって俺にはあんな事しか返せる物は持ってなかった。俺には何も無い。


家に帰って部屋に入り、壁に背中を預けた。下の階では夕と両親が楽しそうに会話をする声が聞こえてきていた。夕は誰にでも親切で優しいだから友達も多い。俺も夕の事は好きだ。両親も平等に接してくれている。
でも何も出来ないと分かっていながら、無駄に夕と自分を比べてしまっている比べても今の状況は何も変わらないのに。