弟が好きすぎる灰羽姉弟と末っ子
「えー…絶対、何か言われるじゃん…めんどい」
「あーん…そんな事言わないで!私も一緒に行ってあげるから!」
母さんに渡されたのは兄ちゃんの弁当。今日は土日で中学生の俺は勿論、休み。姉ちゃんも今日は休みみたいで、一緒にリビングでDVDを見ていた。そんな時に母さんが大きな声を上げるから何かと思えば…朝早くに出て行った兄ちゃんが弁当を忘れて行ったとのこと。母さんは今から習い事があるみたいで、父さんは仕事。
「ごめんね、名前」
「……分かった…姉ちゃん行くよ」
姉ちゃんに弁当(3段)を持たせて、今日は母さんが使わない愛用のママチャリを取りに行く。鍵を開けて後ろに姉ちゃんを乗せてペダルを漕ぐ。
「姉ちゃん、太った?」
「そんなこと言わないで!」
「兄ちゃんにバレー教えてもらえば?」
「そうね。レーヴォチカの練習してるところ見てから、やりたいなって思う事が増えたかな」
兄ちゃんの試合観戦に毎回、姉ちゃんとあかねちゃん両方に誘われるけどあまり行った事はない。兄ちゃんにも兄ちゃんの格好良い所見たいだろ!とめちゃくちゃ決めつけるようにして誘われるけど、そこまで見たくないので行かない。兄ちゃんが外見だけは格好良いのは良く知ってる。
「そういえば、名前は何かスポーツやらないの?」
「兄ちゃんがやってる事とは別の事したいかな」
「そう。なら試合被ったらどっちも行くから!」
「どうやって行くの…」
無理だと分かってる事を当たり前のように言ってのける姉ちゃんに思わず笑って、そう返事を返す。この姉ちゃんなら全力疾走で二人共の試合本当に見に来そうだけど。
音駒高校への道程を走っていると見慣れた頭が目に入る。いつも俺に練習試合とかの観戦を誘いに来るあかねちゃんだ。確か音駒に兄ちゃんがいるとか言ってた。
「あかねちゃん」
「あ、名前!とお姉さん!」
「練習試合ぶりね!あかねちゃん」
「どこか行くの?」
「兄ちゃんに弁当届けに行かなきゃいけなくて」
「じゃあ今から音駒に行くんだ」
「うん、あかねちゃんは?」
「私は今から買い物。お母さんから頼まれたから」
派手なエコバックを片手に近くにあったスーパーを指さしたあかねちゃんはそれだけを言うと、じゃあねと手を振って先を歩いていく。俺もペダルを漕ぐのを再開させてあかねちゃんに手を振ってから先を急ぐ。
「ねぇ、名前」
「何?」
「お姉ちゃん。あかねちゃんならOKだからね」
「何言ってんの?」
何の脈絡もなく突然、そんな言葉を言ってきた姉ちゃんに質問を返すとどこからそんな考えになったのかとんでもない言葉が返ってきた。
「お付き合いしても良いからね!」
「俺とあかねちゃんが?あり得ないから。大体、あかねちゃんは運動できるやつが好きなんじゃないの」
「名前も運動できるじゃない」
「バレーはそんな興味無いし。そろそろ着くよ」
音駒高校の敷地内に入って、体育館の近くに自転車を置くとボールの音が聞こえてくる。姉ちゃんがそわそわしているのが分かって俺が自転車から降りて鍵を掛けたのを見てから走って体育館に向かっていく。
「レーヴォチカ!忘れ物!」
「姉ちゃん、名前は?」
「ちゃんと名前もいるから大丈夫よ!」
のんびりと体育館に向かっていた俺を先に行っていた姉ちゃんが戻って来て、腕を掴むと姉ちゃんが引っ張るようにして進んでいく。足がもつれそうになりながらも、何とか体育館に入ると同時に兄ちゃんが飛びつくように抱き着いて来て近くにあった壁に背中を預けて、何とかよろける程度で済んだ。まるで犬でもあやすみたいに俺の頭を乱暴に撫でる兄ちゃんは、姉ちゃんが持っている弁当を未だに受け取っていない。
「兄ちゃん、弁当無くて困ったんじゃないの?」
「え?あっ!弁当忘れてた!」
まさか今まで気づいていないなんて思わなかった。馬鹿だ馬鹿だと思っていたけど、ここまでとは思わなかった。
「あぁ、噂のリエーフの弟くん?」
「噂の?」
リエーフの後ろから声を掛けてきたのは特徴的な髪形をした男の人で、その人の言葉に思わずそれを繰り返す。噂の…とはどういう意味なんだろうか。また兄ちゃんが変な事を言いふらしてなかったら良いんだけど…ちなみに中学の時には俺が小さい時はいつも兄ちゃんの傍にいただとか…兄ちゃんの後を追いかけて色々習い事をしていただとか…本当なのか嘘なのか良く分からない話だから、俺はクラスメイトに聞かれた時に何も言えなかった。
「あー…俺は黒尾ね。弟くん」
「黒尾さん、初めまして。灰羽名前です」
「リエーフとは大違いだな。色々と」
「そうですか?あ、そういえば…噂ってまた何か言ってましたか?」
「あぁー…何か。俺の弟は姉ちゃんよりも美人だとか」
「……またそんなしょうもないこと…」
思わず溜息を吐いて肩を落とすと、黒尾さんは下にある俺の頭を何故か撫でてくる。姉ちゃんよりも小さい身長を少し気にしているからその手を避けるようにして離れると、黒尾さんは楽しくなったのか気持ち悪い表情で俺に近づいてくる。
「身長、気にしてんの?」
「だったら何なんですか」
「クロ、あんまりちょっかい出したら二人に怒られるよ」
「ふーん…珍しいな。研磨がそんな事、言うなんて」
モヒカンみたいな頭をした男の人が研磨さん?の横に立って、楽しそうに笑っている。今すぐここから逃げ出したい。黒尾さんは研磨さんが声を掛けてくれたのに未だに俺に向かって、兄ちゃんがあれ言ったこれ言ったとずっと繰り返している。
「とりあえず弁当渡したから帰る」
「ちょっと待って!まだ名前について語り終えてないの!」
「姉ちゃんまで何言ってんの…」
音駒高校に通っている訳でもない俺の事を聞いて何が楽しいんだろう。疑問に思いながら、帰る準備を進めているとモヒカン頭の人が衝撃の言葉を出してきた。
「俺、リエーフの弟の写真持ってるぞ」
「は!?」
俺が無言で振り返ると、姉ちゃんと兄ちゃんがほぼ同時に声を上げていた。モヒカンの人に物凄い勢いで近づいて二人揃って携帯を覗いている。そういえばあのモヒカンの人…あかねちゃんに少し顔が似ているような気がする。
「………あの…あのモヒカンの人って…」
「虎のこと?あー…確か妹がいるよ」
「………あかねちゃんか…」
近くにいた研磨さんに聞くと苦笑いしながら嫌な答えを教えてくれた。クラスも一緒だし、席も隣同士だから何度か写真を撮られた事がある。削除したって言ってたからそれからは何も言わなかったのに…。
「すいません…俺、帰ります」
「うん。じゃあね」
研磨さんに声を掛けてから姉ちゃんを置いて、体育館のドアの方に向かおうとしたら虎さんの方に二人揃って詰め寄っている姿を見て思わず溜息を吐いた。後から姉ちゃんが文句を言ってきそうだけど、聞き流せば良いやと思って体育館を出た。
「早く名前の寝顔写真ちょうだい!!」
クール系末っ子男主(リエーフと歳は近い)と姉弟